桜吹雪が舞う夜に
始まり Hinata Side.
彼女に初めて会ったのは、病室だった。
ベッドの横に立つ小柄な少女。
友人の見舞いに来たらしい。
「あぁ、友達?初めまして。循環器内科の御崎日向です」
それだけ言って、俺はカルテに視線を戻した。
そのときの印象は正直、特別なものじゃなかった。
ーーただの、よくいる高校生。
不安そうにベッドの脇に立ち、所在なさげに俯いていた。
けれど、その数分後。
病状が不安定な患者ー理緒は、突然咳き込み、酸素マスクを外してしまった。
慌てる彼女が「どうしよう」と小さく声を上げたとき、俺は自然に声をかけていた。
「大丈夫。深呼吸して。ほら、ゆっくり」
支えながら、理緒を安心させるために微笑んだ。
それは、医師として当たり前の行為のはずだった。
……だが、その瞬間、不意に視線を感じた。
横でこちらを見つめていた彼女の目。
息を呑んだように大きく見開かれていて、何かを強く焼きつけるみたいに俺を見ていた。
(……そんな顔をされても)
ただ仕事をしていただけなのに。
ただの患者の友人に、余計な印象を与えてしまったような気がして。
その瞳の輝きが、なぜか俺の胸の奥に少し残った。