桜吹雪が舞う夜に


ベッドの端に腰を下ろすと、心臓の音が自分でも煩わしいほどに大きく響いていた。
日向さんが隣に腰を下ろす、その気配だけで胸の奥がじんわり熱くなる。

「……電気、消すぞ」
低い声に頷き、部屋は暗闇に包まれた。窓から差し込む街灯の明かりが、わずかに白いシーツを照らしている。

隣に横たわると、布団越しに彼の温もりを感じた。
ほんの少し手を伸ばせば触れられる距離。だけど彼は何もしてこない。ただ静かに呼吸を整えている。

(本当に……隣にいるだけ)

その事実が、どうしようもなく胸を締め付ける。
安堵と切なさが同時に込み上げてきて、喉が詰まりそうになる。

「……日向さん」
勇気を出して呼びかけると、暗闇の中で彼がわずかに振り向いた。
「ん?」

声を聞いただけで、安心感が広がっていく。
私は布団を握りしめながら、小さな声で言った。
「……ありがとうございます。隣にいてくれて」

沈黙が落ちて、やがて彼の手がそっと私の髪を撫でた。
優しい仕草に目頭が熱くなる。

「……おやすみ、桜」
その囁きが子守歌みたいに胸に響いて、私はぎゅっと目を閉じた。

ーー怖さなんて、どこにもなかった。
ただ隣にいてくれることが、何よりも幸せだった。

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