桜吹雪が舞う夜に



そのとき、胸の奥に熱が灯った。
初めて――この人が理性を失って、私に縋りつく姿を見たいと思った。

優しい手も、落ち着いた声も、全部捨てて。
ただ獣みたいに、私を求めてほしい。

そんな欲望が、じわじわと体の奥で膨らんでいく。
怖いはずなのに、どうしようもなく甘い期待が混じって、息が熱くなった。

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