社長、社内恋愛は禁止のはずですが
小さく呟いたその瞬間、まるで聞こえていたかのように社長が振り返った。

視線がぶつかり、慌てて顔を逸らす。

やばい。また何か問いかけられる――そう思った矢先、案の定、社長が戻ってきた。

私の前に立ち、真っ直ぐに見下ろしてくる。

「……何?」

「いえ。」

か細い声で否定するしかない。まさか、社長が好きだなんて言えるはずがない。

ふとすると、彼の顔がすぐ目の前に迫った。覗き込むように。

「えっ……」

「君はいつも、俺に隠し事をする。」

「うっ……」胸が詰まり、何も言えない。だから言えないんだってば。

「思ってることを言ってほしい。」

低く落ち着いた声に、心臓が乱れる。

真剣なまなざしに射抜かれたその時――私は社長を好きになったきっかけを、鮮明に思い出していた。

あの日、絶望していた私を救ってくれた瞬間を。
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