大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。
第136話 水曜日、視線が合うたびに
水曜日。
朱里は、自分でも驚くほど早く目が覚めていた。
(まだ……六時)
目覚ましが鳴るまで、あと一時間以上ある。
二度寝しようと目を閉じても、頭の中に浮かぶのは、嵩の顔ばかりだった。
(昨日のメッセージ、あれでよかったのかな……)
起き上がってカーテンを開ける。
曇り空。雨の気配はない。
(金曜、晴れるかな)
そんなことを考えている自分に、苦笑する。
(ほんと、どうかしてる)
会社に着くと、嵩はすでに席にいた。
パソコンに向かう横顔。
真剣な表情。
(見ない、見ない)
そう思った瞬間、ふと嵩が顔を上げた。
視線が、合う。
ほんの一秒。
なのに、胸が跳ねる。
嵩は小さく会釈するように、目元だけで笑った。
(……ずるい)
何も言っていないのに、あれだけで気持ちが揺れる。
午前中は、業務連絡以外ほとんど会話をしなかった。
「この資料、確認お願いします」
「了解」
短い言葉。
必要最低限。
それが、逆に意識させる。
(距離、近いのか遠いのか分からない)
昼休み。
朱里が席を立とうとした瞬間、嵩が声をかけてきた。
「今日、外行く?」
一瞬、周囲を確認する。
「……はい」
「じゃあ、一緒に」
それだけ。
特別な誘い方じゃないのに、心臓が落ち着かない。
二人で並んで歩く社外の道。
平日の昼、人通りはそこそこある。
「……仕事、忙しい?」
嵩が聞く。
「まあ、いつも通りです」
「無理しそうだからさ」
「してません」
少し強めに言ってしまい、すぐ後悔する。
「あ、すみません」
嵩は苦笑した。
「怒られた」
「違います」
朱里は視線を前に向けたまま、ぽつりと続ける。
「……心配されるの、慣れてなくて」
嵩は一瞬黙り、それから静かに言った。
「そっか」
それ以上、踏み込まない。
(それでいいのに)
なのに、どこか物足りない。
コンビニで昼食を買い、帰り道。
横を歩く嵩の腕が、ほんの少し朱里の腕に触れた。
びくっとして、反射的に距離を取る。
「ごめん」
嵩がすぐに言う。
「……大丈夫です」
でも、心臓は全然大丈夫じゃなかった。
(触れただけで、こんな……)
会社に戻る直前、嵩が足を止めた。
「朱里さん」
「はい?」
「金曜さ」
朱里は、思わず息を止める。
「やっぱり、無理しなくていいから」
また、その言葉。
(優しさが、重い)
でも同時に、胸が温かくなる。
「……無理じゃないです」
はっきり言うと、嵩は少し驚いた顔をした。
「行きたい、です」
言ってしまった。
嵩は一瞬固まり、それから、今まで見たことのないくらい柔らかく笑った。
「……よかった」
その一言で、全部持っていかれる。
午後。
仕事に集中しようとしても、頭の中は金曜のことでいっぱいだった。
視線が合うたびに、
言葉を交わすたびに、
少しずつ、距離が縮んでいる気がする。
(大嫌い、って言い続けてきたのに)
ふと、そんな言葉が頭をよぎる。
(いつから、こんなに)
退勤後、席を立つとき、嵩が小声で言った。
「あと、二日」
朱里は、少しだけ笑った。
「……長いですね」
「うん。長い」
同じ気持ちだと、初めて確信できた。
朱里は、自分でも驚くほど早く目が覚めていた。
(まだ……六時)
目覚ましが鳴るまで、あと一時間以上ある。
二度寝しようと目を閉じても、頭の中に浮かぶのは、嵩の顔ばかりだった。
(昨日のメッセージ、あれでよかったのかな……)
起き上がってカーテンを開ける。
曇り空。雨の気配はない。
(金曜、晴れるかな)
そんなことを考えている自分に、苦笑する。
(ほんと、どうかしてる)
会社に着くと、嵩はすでに席にいた。
パソコンに向かう横顔。
真剣な表情。
(見ない、見ない)
そう思った瞬間、ふと嵩が顔を上げた。
視線が、合う。
ほんの一秒。
なのに、胸が跳ねる。
嵩は小さく会釈するように、目元だけで笑った。
(……ずるい)
何も言っていないのに、あれだけで気持ちが揺れる。
午前中は、業務連絡以外ほとんど会話をしなかった。
「この資料、確認お願いします」
「了解」
短い言葉。
必要最低限。
それが、逆に意識させる。
(距離、近いのか遠いのか分からない)
昼休み。
朱里が席を立とうとした瞬間、嵩が声をかけてきた。
「今日、外行く?」
一瞬、周囲を確認する。
「……はい」
「じゃあ、一緒に」
それだけ。
特別な誘い方じゃないのに、心臓が落ち着かない。
二人で並んで歩く社外の道。
平日の昼、人通りはそこそこある。
「……仕事、忙しい?」
嵩が聞く。
「まあ、いつも通りです」
「無理しそうだからさ」
「してません」
少し強めに言ってしまい、すぐ後悔する。
「あ、すみません」
嵩は苦笑した。
「怒られた」
「違います」
朱里は視線を前に向けたまま、ぽつりと続ける。
「……心配されるの、慣れてなくて」
嵩は一瞬黙り、それから静かに言った。
「そっか」
それ以上、踏み込まない。
(それでいいのに)
なのに、どこか物足りない。
コンビニで昼食を買い、帰り道。
横を歩く嵩の腕が、ほんの少し朱里の腕に触れた。
びくっとして、反射的に距離を取る。
「ごめん」
嵩がすぐに言う。
「……大丈夫です」
でも、心臓は全然大丈夫じゃなかった。
(触れただけで、こんな……)
会社に戻る直前、嵩が足を止めた。
「朱里さん」
「はい?」
「金曜さ」
朱里は、思わず息を止める。
「やっぱり、無理しなくていいから」
また、その言葉。
(優しさが、重い)
でも同時に、胸が温かくなる。
「……無理じゃないです」
はっきり言うと、嵩は少し驚いた顔をした。
「行きたい、です」
言ってしまった。
嵩は一瞬固まり、それから、今まで見たことのないくらい柔らかく笑った。
「……よかった」
その一言で、全部持っていかれる。
午後。
仕事に集中しようとしても、頭の中は金曜のことでいっぱいだった。
視線が合うたびに、
言葉を交わすたびに、
少しずつ、距離が縮んでいる気がする。
(大嫌い、って言い続けてきたのに)
ふと、そんな言葉が頭をよぎる。
(いつから、こんなに)
退勤後、席を立つとき、嵩が小声で言った。
「あと、二日」
朱里は、少しだけ笑った。
「……長いですね」
「うん。長い」
同じ気持ちだと、初めて確信できた。