大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

第179話 言葉を、選ぶ夜

夜。

部屋の電気は落としたまま、スタンドライトだけをつけていた。

静かすぎると、考えが暴走する。

でも明るすぎると、逃げ道がなくなる。

その中間。

朱里はソファに座り、膝にノートを置いた。

(……話す内容)

嵩と話す日が、決まった。

“場所”は決めた。

次は──“中身”。

ペンを走らせる。

・好き
・怖い
・転勤
・一緒にいたい
・失いたくない
・でも、縛りたくない

全部、本音。

でも全部言ったら、きっと相手が溺れる。

(選ばなきゃ)

一度、ノートを閉じる。

好き。

これは、言う。

怖い。

……これは?

(怖いって言われて、嵩はどうするだろう)

守ろうとする。

背負おうとする。

それは、嵩の優しさで、

今まで何度も自分を逃がしてくれた場所。

(でも、今回は)

“怖い”は、言う。

ただし、丸投げしない。

ノートを開き直す。

・怖い(でも逃げない)

次。

転勤。

指が止まる。

(これを、どう言う?)

行かないで、は言いたくない。

行ってほしい、とも言えない。

(選ばせたくない)

ペンを置く。

代わりに、言葉を口に出す。

「……私は、どうしたい?」

しばらく考えて、気づく。

(私が欲しいのは、答えじゃない)

“一緒に考えること”。

それなら──

・転勤(一緒に考えたい)

少し、胸が軽くなる。

最後。

一緒にいたい。

これは、逃げずに言う。

でも、条件付きにはしない。

(覚悟の言葉)

ノートに書く。

・一緒にいたい(今も、これからも)

書き終えて、ペンを置いた。

全部じゃない。

でも、嘘じゃない。

「……これでいい」

朱里は、深く息を吐いた。

完璧じゃない。

震えると思う。

泣くかもしれない。

でも。

(自分の言葉だ)

スマホを手に取る。

嵩のトーク画面。

今は、送らない。

これは、画面越しじゃなくていい。

立ち上がり、窓を開ける。

夜風が、少し冷たい。

(言葉って、怖い)

でも、
言わなかった後悔の方が、ずっと残る。

瑠奈の言葉。
美鈴の眼差し。
嵩の「待つ」。

全部を胸にしまって、
朱里はカーテンを閉めた。

(話そう)
(私の言葉で)

その夜、朱里は
少しだけ、眠れた。
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