大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。
第184話 言われなかった言葉が、確かに残った夜
朱里の言葉が終わったあと、風の音だけが二人の間を通り抜けた。
駅前の喧騒は相変わらずなのに、ここだけ時間が一拍遅れているようだった。
嵩は、すぐに何かを言わなかった。
それが朱里には、ありがたかった。
問い返されるのも、掘り下げられるのも、今は違う。
ただ受け取ってほしかった。
「……怖かった?」
不意に、嵩がそう言った。
責める響きでも、探る声音でもない。
事実をそっと置くみたいな、静かな問い。
朱里は少し考えてから、頷いた。
「うん。今も」
それだけでいい。
付け足さなくても、否定しなくても。
嵩は小さく笑った。
「それ、言ってくれてよかった」
「……え?」
「好きだって言われるより、今はそっちのほうが、ちゃんと届いた」
朱里は、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
言わなかった言葉まで、見透かされたようで。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
「俺さ」
嵩は一歩だけ、朱里に近づく。
触れない距離は保ったまま。
「転勤の話も、将来の話も、答えを出せるほど強くない」
「でも──逃げないでここに来たのは、朱里と同じだ」
朱里は、初めてはっきり思った。
ああ、この人も選んでいるんだ、と。
完璧な答えじゃなくても。
言えないことを抱えたままでも。
「……今日は、これでいい」
朱里がそう言うと、嵩は頷いた。
「うん。今日は、ここまでにしよう」
帰り道は、また並んで歩いた。
会話は少なかったけれど、沈黙は重くなかった。
別れ際、嵩が言う。
「朱里」
「さっきの言葉──大事にする」
朱里は、笑って頷いた。
駅の改札を抜けながら、思う。
伝えなかった言葉は、消えたわけじゃない。
必要なときに、また選び直せばいい。
怖いままでも、前に進める。
それを知った夜だった。
駅前の喧騒は相変わらずなのに、ここだけ時間が一拍遅れているようだった。
嵩は、すぐに何かを言わなかった。
それが朱里には、ありがたかった。
問い返されるのも、掘り下げられるのも、今は違う。
ただ受け取ってほしかった。
「……怖かった?」
不意に、嵩がそう言った。
責める響きでも、探る声音でもない。
事実をそっと置くみたいな、静かな問い。
朱里は少し考えてから、頷いた。
「うん。今も」
それだけでいい。
付け足さなくても、否定しなくても。
嵩は小さく笑った。
「それ、言ってくれてよかった」
「……え?」
「好きだって言われるより、今はそっちのほうが、ちゃんと届いた」
朱里は、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
言わなかった言葉まで、見透かされたようで。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
「俺さ」
嵩は一歩だけ、朱里に近づく。
触れない距離は保ったまま。
「転勤の話も、将来の話も、答えを出せるほど強くない」
「でも──逃げないでここに来たのは、朱里と同じだ」
朱里は、初めてはっきり思った。
ああ、この人も選んでいるんだ、と。
完璧な答えじゃなくても。
言えないことを抱えたままでも。
「……今日は、これでいい」
朱里がそう言うと、嵩は頷いた。
「うん。今日は、ここまでにしよう」
帰り道は、また並んで歩いた。
会話は少なかったけれど、沈黙は重くなかった。
別れ際、嵩が言う。
「朱里」
「さっきの言葉──大事にする」
朱里は、笑って頷いた。
駅の改札を抜けながら、思う。
伝えなかった言葉は、消えたわけじゃない。
必要なときに、また選び直せばいい。
怖いままでも、前に進める。
それを知った夜だった。