大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。
第191話 答えを急がない、という選択
夜。
キッチンの照明だけが点いた部屋で、朱里と美鈴は向かい合って座っていた。
テーブルの上には、温くなりかけたマグカップが二つ。
「……で」
美鈴が先に口を開いた。
「結局、どうなったの?」
朱里はスプーンでカップの縁をなぞりながら、少し考えてから答えた。
「何も、決まってません」
「うん」
「でも……何も言わずに終わった、って感じでもないです」
美鈴はそれを聞いて、ふっと息を吐いた。
「朱里らしい答えですね」
「そうですか?」
「ええ。全部言って全部決めて全部背負う、ってやり方。 昔の朱里なら、無理してやってた」
朱里は苦笑した。
「……今回も、やろうとしました」
「でしょうね」
間髪入れずに返されて、朱里は肩をすくめる。
「でも、途中で分からなくなって。 “今の私が言えること”と、“まだ言えないこと”があるって」
美鈴は黙って聞いていた。
評価もしない。結論も出さない。
ただ、親友としてそこにいる。
「嵩さんは?」
「……前に進もうとしてる顔でした」
「それで?」
「それを見て、ちょっと安心して、ちょっと怖くなりました」
正直すぎる言葉が、ぽろりと落ちる。
「置いていかれるのは怖い。でも、足を止めさせたいわけじゃない」
朱里は顔を上げ、美鈴を見る。
「私、ちゃんと好きになったんだなって思いました」
美鈴は、ゆっくりと微笑んだ。
「遅い自覚ですね」
「うるさいです」
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
居心地のいい、逃げ場のある沈黙。
「朱里」
美鈴が、少しだけ声を落とした。
「転勤は、現実です。誰かが傷つかずに済む選択は、たぶんない」
朱里は頷く。
「分かってます」
「でもね」
美鈴は続ける。
「“今すぐ答えを出さない”って選択は、逃げじゃない」
朱里の指が、ぴくりと止まる。
「向き合ってるからこそ、保留にできる。 それ、弱さじゃないですよ」
朱里はゆっくり息を吸って、吐いた。
「……美鈴さんが親友でよかった」
「今さら」
美鈴は肩をすくめ、立ち上がる。
「第10章は、ここまでですね」
「え?」
「次からは——“選ぶ話”です」
そう言って、キッチンの照明を消した。
暗くなった部屋で、朱里は一人、思う。
まだ何も決まっていない。
でも、もう「何も感じていないふり」はできない。
答えを急がない、という選択。
それは、今の自分にできる、精一杯の前進だった。
キッチンの照明だけが点いた部屋で、朱里と美鈴は向かい合って座っていた。
テーブルの上には、温くなりかけたマグカップが二つ。
「……で」
美鈴が先に口を開いた。
「結局、どうなったの?」
朱里はスプーンでカップの縁をなぞりながら、少し考えてから答えた。
「何も、決まってません」
「うん」
「でも……何も言わずに終わった、って感じでもないです」
美鈴はそれを聞いて、ふっと息を吐いた。
「朱里らしい答えですね」
「そうですか?」
「ええ。全部言って全部決めて全部背負う、ってやり方。 昔の朱里なら、無理してやってた」
朱里は苦笑した。
「……今回も、やろうとしました」
「でしょうね」
間髪入れずに返されて、朱里は肩をすくめる。
「でも、途中で分からなくなって。 “今の私が言えること”と、“まだ言えないこと”があるって」
美鈴は黙って聞いていた。
評価もしない。結論も出さない。
ただ、親友としてそこにいる。
「嵩さんは?」
「……前に進もうとしてる顔でした」
「それで?」
「それを見て、ちょっと安心して、ちょっと怖くなりました」
正直すぎる言葉が、ぽろりと落ちる。
「置いていかれるのは怖い。でも、足を止めさせたいわけじゃない」
朱里は顔を上げ、美鈴を見る。
「私、ちゃんと好きになったんだなって思いました」
美鈴は、ゆっくりと微笑んだ。
「遅い自覚ですね」
「うるさいです」
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
居心地のいい、逃げ場のある沈黙。
「朱里」
美鈴が、少しだけ声を落とした。
「転勤は、現実です。誰かが傷つかずに済む選択は、たぶんない」
朱里は頷く。
「分かってます」
「でもね」
美鈴は続ける。
「“今すぐ答えを出さない”って選択は、逃げじゃない」
朱里の指が、ぴくりと止まる。
「向き合ってるからこそ、保留にできる。 それ、弱さじゃないですよ」
朱里はゆっくり息を吸って、吐いた。
「……美鈴さんが親友でよかった」
「今さら」
美鈴は肩をすくめ、立ち上がる。
「第10章は、ここまでですね」
「え?」
「次からは——“選ぶ話”です」
そう言って、キッチンの照明を消した。
暗くなった部屋で、朱里は一人、思う。
まだ何も決まっていない。
でも、もう「何も感じていないふり」はできない。
答えを急がない、という選択。
それは、今の自分にできる、精一杯の前進だった。