大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

第99話 朝の沈黙、午後のざわめき

翌日。
出社した朱里は、デスクに座る前からすでに挙動不審だった。

(落ち着けってば……。
昨日、瑠奈ちゃんとカフェにいた時、あの質問されたからって、動揺しすぎ……。
“平田さんのことどう思ってる?”って……
なんであそこであんなに狼狽えたの私……)

心の中で自分を三回くらい正座させながら、そっと椅子に腰を下ろす。

すると、すかさず美鈴が視界の端にひょいっと顔を出した。

「で、昨日の“女二人ショッピングモール会議”はどうだったの?」

「な、なんで“会議”扱いなの……」

「顔に書いてある。悩んでますって」

(今日一人目……“顔に出てる”って言った人……)

朱里は頬を押さえて、小さくため息をついた。

「瑠奈ちゃんに……聞かれたんだよ。“平田さんのこと、どう思ってる?”って」

「へええ……核心ついてくるじゃん、あの子」

美鈴は朱里のコーヒーカップを奪い、自分の机に置いた。

「で、なんて答えたわけ?」

「“上司だよ?”って」

「それ、テンプレでごまかすやつ」

「わ、わかってるよ……!」

背もたれに沈み込む朱里。
そこへ、今度は低く落ち着いた声が飛んできた。

「中谷さん?」

(ひっ……!!)

反射で椅子ごと回転しそうになるのを必死でこらえる。

「ひ、ひら……平田先輩!」

「そんなに驚かなくても……」

嵩は書類を持ったまま、少し困ったように眉を下げて笑った。
その優しい顔だけで胸の鼓動が一瞬で跳ね上がる。

「この資料、確認お願いできますか。
それと……昨日言った“夕方の件”、会議が終わった頃にまた声をかけます」

「は、はいっ!」

また声が裏返る。

嵩は一瞬だけ目を瞬いたあと、ふっと柔らかく笑った。

「……緊張してる?」

「し、し、してません!」

(してる!!全身でしてる!!!)

「ならよかった。無理な用じゃないから」

その言葉だけで、朱里の予備HPはゼロを割った。

嵩が去ると同時に、美鈴がスライドするように朱里の横へ。

「ねぇ今の、“緊張してる?”絶対わかって言ってるよね?」

「やめてぇぇぇ!!」

「ほらもう、完全に恋愛体力ゼロの人の反応」

「誰が恋愛体力ゼロだぁ!」

「朱里」

「……はい」

美鈴はにこりと笑った。

「夕方、呼ばれるんでしょ。がんばりなよ?」

朱里はうつむきながら、小さく呟いた。

「……なんで私なのかなぁ……」

その声は、誰に向けたものなのか自分でもよくわからない。

ただ一つだけ確かだったのは──
夕方が近づくにつれ、胸の鼓動がどんどん速くなっていくこと。

そして夕方。
会議室のドアが開き、嵩が姿を現す。

「中谷さん。少し、いいですか?」

その瞬間、朱里の脳内は
“業務連絡”と“恋のフラグ”が同時に点滅しはじめた。

(い、いよいよ……!)

──夕方の少しだけ、二人の距離が縮まる時間が始まろうとしていた。

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