大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

第98話 夕方の招集、心臓の鼓動

ショッピングモールのカフェ。

さっきまでの会議室の延長のような空気が、まだ朱里の肩に乗っている。



瑠奈はストローをくわえながら、目を細めた。



「で?平田先輩のこと、“先輩、だよ?”ねぇ。どういう“だよ?”?」



「どういう、って……普通に、上司……」



「その“普通に”が普通じゃないんだよねぇ」



「な、なんでわかるの……」



「先輩、嘘つくと語尾がやわらかくなるの。かわいくなるの。バレるの。」



「それ褒めてないよね?」



「褒めてますよ。とてもかわいい。でも誤魔化しはバレバレです」



(褒められてるのか指摘されてるのか……いやほぼ指摘だ……)



朱里はスプーンをいじりながら視線を泳がせた。

昨日の映画の記憶が、やわらかい光みたいに胸に残っている。



(あれ……なんだったんだろ……

隣にいたのは“上司”なのに、心はすごく……)



「ね、先輩」



「な、なに」



「昨日の帰り道の先輩、めちゃくちゃわかりやすかったよ?」



「わ、わかりやすかった……?」



「うん。“好き”の気配がしました」



ストローを吸う音が、やけに大きく聞こえた。



「ちょっ……なんでそう決めつけるの!?」



「じゃあ違うんですか?」



「……ちが……いや違っ……ちょっと待って……!」



完全に言語崩壊。



瑠奈はにっこり笑う。



「先輩、落ち着いて?

気づいたなら言えばいいだけですよ。

“好きになった気がする”でも、“まだわからない”でも」



朱里は俯き、テーブルの木目を眺めた。



(わからない……でも、昨日の嵩さんの横顔、

今日の朝のやさしい声……)



(私……どうしたいんだろ……)



そのとき。



スマホが震えた。



──平田嵩:

〈明日夕方、会議のあと、少し時間もらえる?〉



心臓が跳ねた。



瑠奈がすかさず覗き込む。



「うわ待って!出た、“名前だけで心拍上昇メッセージ”!」



「ちょっと覗かないで!」



「覗ける距離に置いた先輩が悪いです!」



朱里はスマホを抱えるように持ち、深呼吸した。



(夕方……時間……ってなに?

昨日の続き?それとも仕事?

いや仕事なら“少し時間もらえる?”なんて言い方しない……はず……?)



脳内会議が爆速で開催される。



瑠奈はコーヒーをかき回しながら、妙に冷静に言った。



「ねぇ先輩、それほぼ“デート前の確認”ですよ?」



「なんでそんな断言するの……」



「だって先日映画でしょ?今日はその“余韻の日”でしょ?

そこに“少し時間もらえる?”ですよ?

もうこれ、告白の予備モーションじゃないですか!」



「よ、予備モーション……!?」



「そうです。

“いきなり本編には入らないけど、今日の伏線だけ置いとくね”ってやつですね」



(嵩さんがそんな脚本みたいなことを!?いや、ない……とは言い切れない……)



朱里は机に突っ伏した。



「むり……心臓が……仕事してくれない……」



「じゃあ深呼吸して。はいすーっ……」



「やめて……落ち着かない……」



「じゃあそのテンションのまま行きましょう!

そのほうが、平田先輩たぶん喜びますよ」



「なんでぇぇえええ」



朱里は頭を抱えた。



けれど。



スマホの画面に光る“嵩”の名前を見て、

胸の奥がほんの少し、決意に近い何かであたたかくなる。



(会おう。

──会って、ちゃんと顔を見て話したい)



指先が震える。



朱里はメッセージを打った。



──中谷朱里:

〈はい、大丈夫です〉



送信。



すぐ既読。



そして、



〈よかった。じゃあまた連絡する〉



短い文なのに、体温みたいにやさしい。



瑠奈がニヤニヤしながら肩を小突いた。



「ね?こういうのを“恋の兆候”っていうんですよ」



朱里はカップを両手で包みながら呟いた。



「……もしさ、もし……私……」



「はい?」



「“大嫌い”って100回言ったら、ほんとはこうなるって……

気づかれちゃうのかな……」



「もうほぼ気づかれてると思いますよ?」



「やめてぇぇええええ!!」



ショッピングモールの喧騒の中、朱里の叫びはかき消された。



でも、その頬はほんのり赤く染まっていた。



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