不幸を呼ぶ男 Case.2
​【都内・走行中の車】

滝沢は
アジトを出ると一台の車に乗り込んだ
そして走りながら
一つの番号に電話をかける
​『はい!アトリエ・クロマです!』
​電話の向こうから
やけに元気な女性の声がした
​滝沢:「俺だ。今から行く」
​『えーーっ!今からですか!?』
『心の準備が!』
​滝沢は
女性の甲高い声を無視して
一方的に電話を切った

【滝沢のアジト】

璃夏はソファで
ふぅーっと、大きく伸びをした
ようやく、日常が戻ってきた気がした
​明日香:「リカさんも、あの後、色々あったんですって?」
​その、穏やかな問いに
璃夏は、少しだけ驚いた顔をした
そして
あの大野元総理の暗殺事件の後
自分が「結城リカ」として死に
「椎名璃夏」として生まれ変わった
その壮絶な物語を
ぽつり、ぽつりと、語り始めた
​明日香は
その想像を絶する話に
ただ、驚いていた
だが、同時に、深く理解した
目の前の女性が、なぜ顔を変えなければならなかったのか
そして、なぜ、滝沢の隣にいるのか
​明日香:「……さっきは、滝沢さんがいたから、言わなかったのだけれど」
​璃夏は、彼女の顔を、じっと見つめた


​--- 明日香の回想・5年前 ---

滝沢さんが、私のボディーガードになってくれた
それからの日々は、嘘のように穏やかだった
桐生院家の妨害は、ぴたりと止み
店は、徐々に、元の姿を取り戻していく
​そして
数週間が過ぎた、ある夜
閉店後の、誰もいない「Le Labyrinthe」で
滝沢さんと私は、二人きりで、グラスを傾けていた
​滝沢:「……もう、ボディーガードは必要なさそうだな」
​その、あまりに唐突な言葉に
私は、心臓を鷲掴みにされたかのように、驚いた
​滝沢:「何かあれば、また連絡をくれ」
​彼はそう言うと、店から出て行こうとする
その、大きな背中が、遠ざかっていく
​(行かせちゃ、ダメ……!)
​私は、走り出した
そして、店の扉の前で
彼の前に、割り込むように、立ちはだかった
​明日香:「滝沢さんが、好きなんです…」
明日香:「ずっと、私と一緒にいてくれませんか?」

しばらくの沈黙

滝沢:「……俺と、響じゃ、住む世界が違いすぎる」
​明日香:「だったら、夜の世界から、足を洗います!」
​滝沢さん:「……そうじゃねぇ」
​彼の目が
どこか、遠い場所を見ていた
​滝沢さん:「俺の住む世界は、お前が思うより、ずっと闇が深い」
滝沢さん:「お前を、そこに引きずり込むわけには、いかない」
​滝沢さん:「……そういう話じゃないなら、また連絡してこい」
​彼は、私の横をすり抜け
そして、今度こそ、店から出て行った

--- アジト・現在 ---

璃夏は
その、あまりに切ない結末に
ただ、言葉を失っていた
​明日香は、何百、何千という男たちを
これまで相手にしてきた
もしかしたら、何万という数かもしれない
​豪華なプレゼント
湯水のように使われる金
その全ては
私を「モノ」にするための、手段でしかなかった
​私は「モノ」じゃない
明日香:「……でも、あの人だけは、違った。1人の人間として扱ってくれた」
明日香:「なによりも、滝沢さんの目が、私と同じに見えたの」
明日香:「……とても、寂しい目をしていた」
明日香:「だから、私は、滝沢さんに恋をした」

明日香は、そこで、ふっと笑った
まるで、少女のように
無邪気に
​明日香:「……まぁ、見事に、ふられちゃったけどね」
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