不幸を呼ぶ男 Case.2
【深夜・品川埠頭 第七倉庫】
石松は
一人、倉庫の中へと足を踏み入れた
中は、がらんどうで
ひやりと、冷たい空気が漂っている
その、中央
鉄骨の下に
二つの人影が、うずくまっていた
桐生院琉星と
その母、彩音だった
二人は、ただ、抱きしめ合いながら
静かに、泣いていた
石松:「……どういうことだ?」
石松:「なぜ、桐生院彩音が、ここに…」
石松が近づくと
その足音に、彩音が、はっと顔を上げた
彼女の瞳には
もう、女帝の光はなかった
ただ、全てを失った、母親の絶望だけが
そこにはあった
彩音:「……自首、します」
彩音:「息子の罪も、それを隠蔽しようとした私の罪も」
彩音:「全て、お話しします…」
その、あまりに、あっけない幕切れ
石松は
言葉を、失っていた
長年追い続けた、巨大な悪
その、最後の姿が
ただ、泣き崩れるだけの、一組の親子だったことに
彼は、勝利の喜びよりも
むしろ、どうしようもない、虚しさを感じていた
彼は、何も言わず
ただ、静かに、本部へ連絡を入れた
全てが、終わったのだと
【走行中の車内】
璃夏は
バックミラー越しに
運転席に座る、滝沢の横顔を見た
璃夏:「……殺し屋なのに」
璃-夏:「よく、刑事さんと、あんな風に話せますね?」
その声には
驚きと、呆れが、半分ずつ混じっていた
滝沢:「……あいつが、俺を捕まえられると思うか?」
明日香は、その、絶対的な自信に満ちた言葉に
後部座席で、くすりと笑った
滝沢:「……それと」
璃夏と明日香が、彼の次の言葉を待つ
滝沢:「ああいう、馬鹿正直なヤツは」
滝沢:「嫌いじゃねぇ」
それは
正義と悪という、全く違う場所に立ちながらも
自らの信念を決して曲げない、一人の男から
もう一人の男への
最大限の、敬意の言葉だった