鬼課長は、ひみつの婚約者
私は、瑛斗が真由を冷たくあしらう様子を遠目から見ていた。
その冷徹な横顔は、私には決して見せないものだ。会社での彼の振る舞いに、私はまたも不安を感じていた。
本当にこの人で良かったのかな? そんな思いがふと、頭をよぎる。
瑛斗は、私を愛してくれている。それは疑いようのない事実だ。でも、会社の冷たい彼は、まるで別人のようだ。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま、私は残業を終え、重い足取りでオフィスを出た。
すると、真由が、熱心なアピールを瑛斗に向けていた。
「望月課長! 良ければ、こちらの資料もご覧ください。次期プロジェクトの提案書です。課長に認めていただきたくて、頑張って作りました」
真由は、仕事で認められたいという強い意志を胸に、最近よく瑛斗に話しかけている。その真っ直ぐな姿勢は、私にはないものだった。
そんな真由の姿を見て、私はどうしようもなく不安になる。
こんなに積極的で魅力的な真由が近くにいるのに、どうして瑛斗は私と婚約してくれたんだろう。
私は、彼の隣に並び立つ資格がないのでは、とさえ思ってしまった。
数日後の夜。残業を終えた私がオフィスを出たそのとき。
「……え」
空から降ってきた水滴が、ぽつりと鼻先に当たった。
アスファルトに染みを作る雨音は、あっという間にざあざあと激しさを増し、街の喧騒をかき消していく。
「うそ……」
運の悪いことに雨足は強まるばかりで、上着もタイトスカートもすぐにびしょ濡れになってしまった。
ああ、どうしよう……。