ツキ ト タイヨウ
俺は、人と話すのが得意じゃない。 いや、話すのが得意じゃないというよりは、話す必要がなかった。

「陽向くん、これよかったら」 「陽向くん、次の休み時間空いてる?」

渡されるジュースや、遠慮がちにかけられる言葉。
俺がただそこにいるだけで、周りの女子は勝手に騒ぎ出す。彼女たちの反応は、いつも同じだった。

顔を赤くして、恥ずかしそうに下を向く。友達とコソコソ話して、俺の視線が少しでも向くと、嬉しそうに微笑む。
その全てが、まるで台本があるみたいに、予測可能でつまらなかった。

だから、俺は基本女子とは関わらないでいた。男といた方が気が楽だし、 教室の窓から校庭を眺めたり、イヤホンで音楽を聴いたり自分の世界にいる方が心地よかった。

そんな俺が、初めて予測できなかったのが、窓際で本を読んでいる彼女だった。


彼女は、俺が近くに座っても、視線を上げることすらしなかった。
俺が床にペンを落として、音がしても、
一瞬だけ顔を上げたものの、すぐに自分の本の世界に戻っていった。

孤高の一匹狼の彼女の目は、俺という存在を、ただの「雑音」として認識しているようだった。
その、ありえない反応に、俺の心は静かに波立った。
彼女の世界の登場人物に、俺はいない。 ただのクラスメイト、いや、もしかしたら、俺という存在にすら、興味がないのかもしれない。

初めて出会った、予測不能な「月」。 俺は、この子を、もっと知りたいと思った。


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