花火に消えた好き、夜空に残る君
第2章 七夕の短冊
七月七日。
昇降口を抜けると、図書室前の廊下に大きな笹が立てられていた。色とりどりの短冊が風に揺れて、蛍光灯の光を反射している。
「わ、今年も出たね。みんな真面目に書くのかな」
ユリが立ち止まって、持っていたペンを振った。
「どうせ『テストで満点』とか『背が伸びますように』とかだよ」
「じゃああんたは?」
「私は……ひみつ」
ユリはにやにや笑って短冊を選び始める。私はつられて用紙を一枚取ったけれど、願いごとなんてすぐには浮かばない。
「書かないの?」
背後から聞こえた声に、心臓がびくりと跳ねる。
振り返れば、カイが立っていた。サッカー部のジャージ姿、髪は少し汗で濡れている。
「べ、別に。書くし」
「へぇ」
彼は短冊を手に取り、さらさらとペンを走らせる。その迷いのなさが羨ましい。
「なに書いたの?」
「ひみつ」
にやっと笑って、短冊を結ぶ。
私は余計に書きにくくなって、ペンを持ったまま立ち尽くした。
(何を書けばいいんだろう。…夏祭りで失敗しませんように? それとも、浴衣が似合いますように?)
考えれば考えるほど恥ずかしくなる。
「……真剣に悩んでる?」
カイが覗き込んでくる。距離が近くて、息が詰まる。
「ちょっと!」
思わず声が大きくなり、通りすがりの子たちが笑って振り返る。
「ごめんごめん。でも、そうやって笑ってる顔の方がいいよ」
「……っ」
一瞬言葉を失う。
「前はそんなに笑わなかったのにさ」
彼は何気なさそうに呟いて、目を細めた。
前? どういう意味?
問い返そうとしたけれど、ユリが横から割って入った。
「はいはーい、お二人さん。いちゃついてる暇があったら早く結んで!」
「ち、違うから!」
「はいはい」
慌てて短冊に書いたのは、曖昧な文字。
《みんな元気に過ごせますように》
無難すぎて、願いごとというよりお知らせみたいだ。
笹に結びつけると、他の短冊の間で風に揺れた。
「……まあ、これでいいや」
声に出してみたけれど、心の奥はもやもやしたままだった。
教室に戻る途中、ユリが小声で囁く。
「ねえ、カイ、なんか意味深じゃなかった? “前は笑わなかった”って」
「そ、そんなことないでしょ」
「ふーん。顔、赤いけど?」
「……っ!」
私は返事をしないまま教室に駆け込んだ。
窓の外では、笹の葉がまた揺れていた。
昇降口を抜けると、図書室前の廊下に大きな笹が立てられていた。色とりどりの短冊が風に揺れて、蛍光灯の光を反射している。
「わ、今年も出たね。みんな真面目に書くのかな」
ユリが立ち止まって、持っていたペンを振った。
「どうせ『テストで満点』とか『背が伸びますように』とかだよ」
「じゃああんたは?」
「私は……ひみつ」
ユリはにやにや笑って短冊を選び始める。私はつられて用紙を一枚取ったけれど、願いごとなんてすぐには浮かばない。
「書かないの?」
背後から聞こえた声に、心臓がびくりと跳ねる。
振り返れば、カイが立っていた。サッカー部のジャージ姿、髪は少し汗で濡れている。
「べ、別に。書くし」
「へぇ」
彼は短冊を手に取り、さらさらとペンを走らせる。その迷いのなさが羨ましい。
「なに書いたの?」
「ひみつ」
にやっと笑って、短冊を結ぶ。
私は余計に書きにくくなって、ペンを持ったまま立ち尽くした。
(何を書けばいいんだろう。…夏祭りで失敗しませんように? それとも、浴衣が似合いますように?)
考えれば考えるほど恥ずかしくなる。
「……真剣に悩んでる?」
カイが覗き込んでくる。距離が近くて、息が詰まる。
「ちょっと!」
思わず声が大きくなり、通りすがりの子たちが笑って振り返る。
「ごめんごめん。でも、そうやって笑ってる顔の方がいいよ」
「……っ」
一瞬言葉を失う。
「前はそんなに笑わなかったのにさ」
彼は何気なさそうに呟いて、目を細めた。
前? どういう意味?
問い返そうとしたけれど、ユリが横から割って入った。
「はいはーい、お二人さん。いちゃついてる暇があったら早く結んで!」
「ち、違うから!」
「はいはい」
慌てて短冊に書いたのは、曖昧な文字。
《みんな元気に過ごせますように》
無難すぎて、願いごとというよりお知らせみたいだ。
笹に結びつけると、他の短冊の間で風に揺れた。
「……まあ、これでいいや」
声に出してみたけれど、心の奥はもやもやしたままだった。
教室に戻る途中、ユリが小声で囁く。
「ねえ、カイ、なんか意味深じゃなかった? “前は笑わなかった”って」
「そ、そんなことないでしょ」
「ふーん。顔、赤いけど?」
「……っ!」
私は返事をしないまま教室に駆け込んだ。
窓の外では、笹の葉がまた揺れていた。