野いちご源氏物語 三七 鈴虫(すずむし)
源氏(げんじ)(きみ)尼宮(あまみや)様のお世話を熱心になさる。
若くして(あま)にしてしまったことを、ご自分だけの責任ではないけれど申し訳なくお思いなのでしょうね。

入道(にゅうどう)上皇(じょうこう)様は、すでに尼宮様のために新しいお住まいをご用意なさった。
「完成した仏像(ぶつぞう)をそちらに置いて、この機会に六条(ろくじょう)(いん)から引っ越しなさった方が世間体(せけんてい)がよいでしょう」
とお(すす)めなさったけれど、源氏の君が反対されたの。
「離れていては私が心配なのでございます。朝晩のご挨拶(あいさつ)さえ気軽にできないようでは誠意もお見せできません。()(さき)短い私ですが、(とうと)内親王(ないしんのう)様を頂戴(ちょうだい)した以上、命のあるかぎり真心(まごころ)をこめてお世話させていただきたいと存じます」

その一方で、ご自分の死後は尼宮様がそちらへお引越しなさるだろうと想定していらっしゃる。
お住まいの手入れをさせ、内親王として朝廷(ちょうてい)からお受け取りになっている財産は、そちらの(くら)に入れておかれる。
さらに新しく蔵をお建てになると、尼宮様が上皇様から相続(そうぞく)なさった宝物などを運び込むようお命じになった。
財産や宝物を六条の院に置いたままにしたら、将来、どなたのものか分からなくなって()(ごと)になってしまうかもしれない。
それを避けるために、これは女三の宮様の財産と宝物だと、はっきり分けて厳重(げんじゅう)に管理しておかれるの。
その上で、日々のお暮らしにかかる費用は源氏の君がお世話なさる。
< 6 / 17 >

この作品をシェア

pagetop