野いちご源氏物語 三七 鈴虫(すずむし)
尼宮(あまみや)様のお部屋の前のお庭は、修行(しゅぎょう)生活にふさわしい、落ち着きある野原のように源氏(げんじ)(きみ)が作りかえなさった。
鈴虫(すずむし)松虫(まつむし)などがよい声で鳴いている。
風が少し涼しくなった秋の夕暮れ時、源氏の君はお越しになった。
虫の音を聞いているように見せかけて尼宮様に色めいた(うら)(ごと)をおっしゃる。
(あま)になってもまだそのようなことを言われなければならないのか>
尼宮様は不本意(ふほんい)にお思いになる。

人目(ひとめ)のあるところでは今までどおり大切に尼宮様をお扱いなさるけれど、亡き衛門(えもん)(かみ)様のことでこっそりと嫌味(いやみ)をおっしゃることもあるの。
そういう()()ちから逃げたい一心(いっしん)でご出家(しゅっけ)の道を選ばれた。
尼になってやっと安心なさったのに、いまだに源氏の君は恨み言をおっしゃる。
六条(ろくじょう)(いん)から出ていきたい>
とお思いになるけれど、大人ぶったことを言うのは恥ずかしくて黙っていらっしゃる。
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