温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
「……圭吾さん、素敵なお父さんですね」

その一言に、彼の瞳がやわらぎ、波瑠の手を強く握り返した。

夜景を見つめていた圭吾が、ふと波瑠の方へ視線を移した。
そして、低く熱のこもった声で告げる。

「……波瑠。俺はお前といるときだけ、一人の男に戻れる」

 その言葉に、波瑠の胸が強く揺さぶられる。
彼の視線は真剣で、仕事も父親としての役割もすべて脱ぎ捨て、ただの“圭吾”として彼女を見つめている。

「……圭吾……」
名前を呼ぶ声が震える。

 頬に熱が広がり、涙がこぼれそうになる。
彼の言葉が、何よりも甘く、そして深く、波瑠の心を満たしていた。

「そろそろ中に入らないか?」
圭吾が声をかける。

「そうね。だいぶ冷え込んできたし」
波瑠は頷き、肩から掛けられていたブランケットを丁寧に畳んだ。

 二人で部屋に戻る。圭吾はマグカップをシンク脇に置き、戻ってくると、ソファーのクッションを整えていた波瑠の背後に立った。

 次の瞬間、強い腕が迷いなく彼女を包み込む。
「……圭吾……」
驚きと甘さの混じった声が漏れる。

 背中から伝わる体温に、波瑠の全身がふわりと熱を帯びる。
耳元で低く響く吐息が、まるで心の奥まで抱きしめられているようだった。

「今日一日どうだった?」
背後から抱きしめたまま、圭吾が低く問う。

「楽しかったです。……ありがとう」
「どういたしまして」

 けれど、波瑠は時計を意識したように小さく息を吐いた。
「もう遅いですから……そろそろ失礼します」

 そう言って、彼の腕をそっと外そうとする。
だが圭吾の腕はびくともしなかった。

「……行かせると思うか?」
低く響いた声に、波瑠の心臓が跳ねる。

「でも……」

言い訳を探す彼女の耳元に、圭吾の熱い吐息が落ちる。
「俺のこと、好きだって言ったのは……嘘だったのか?」

「……嘘じゃないわ!」
思わず振り向いた波瑠の瞳には、涙がにじんでいた。

 その一滴を見た瞬間、圭吾の胸に熱と痛みが同時に走る。
「……波瑠」

 彼の手が頬に添えられ、親指が涙の軌跡をそっとなぞった。
「泣かせるつもりじゃなかった。……すまない」

「ひどいわ……」
波瑠は圭吾の胸の中で、心底悲しそうに小さくつぶやいた。

 圭吾の胸に刺さるようなその声。

彼は深く息を吐き、彼女を抱く腕をさらに強くした。
「……すまない。許してほしい」

 低く震える声が、波瑠の耳元に落ちる。
いつもは強引で揺るがない男の、その素直な謝罪に胸が締めつけられる。

 波瑠は涙をこらえながら、彼の胸に額を押し当てた。
「……圭吾さん……」

 彼の鼓動が早鐘のように伝わってくる。
その音が、言葉以上に彼の必死さを物語っていた。

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