温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
「……波瑠。土産があるぞ」
「え?」

圭吾が差し出したのは、単行本くらいの大きさの箱と、リボンのかかったチョコレートだった。
「開けてみろ」

波瑠は戸惑いながらも、箱のリボンをほどく。
ふたを開けると、目に飛び込んできたのは――エメラルドブルーの革で仕立てられたジュエリーボックス。
光を受けて柔らかく艶めき、ふたには金文字で「HARU」と刻まれていた。

「……わあ、素敵……」

思わず息をのむ波瑠の指先が、震えながらふたを開ける。
そこには、小さなダイヤモンドのピアスが静かに輝いていた。

「これから、俺が波瑠に贈るジュエリーはすべて……ここにしまってほしい」

低く囁く圭吾の声に、胸がぎゅっと詰まる。
忙しいスケジュールの中、自分のために選んでくれたこと。
自分の名を刻んだ特別な箱を用意してくれたこと。

圭吾は小箱からピアスを取り出すと、そっと彼女の前に膝をついた。
「……波瑠。顔をこちらに」

促されるままに横を向くと、彼の指先が耳に触れる。
冷たい金具の感触と、彼の熱を帯びた指が同時に重なり、波瑠の心臓が跳ね上がった。

「動くなよ」
低い声が耳朶に触れて震える。

カチリと小さな音を立て、片方の耳にダイヤが収まる。
続けて反対の耳へ、顔を近づけた圭吾の吐息が、うなじにかかって思わず目を閉じた。

「……似合ってる」

囁きとともに、彼の唇が軽く耳たぶに触れる。
熱が頬に広がり、波瑠はただ息を詰めて彼を見つめ返すしかなかった。

耳元で光る小さなダイヤを指先でそっと確かめながら、波瑠は視界が滲んでいくのを止められなかった。

「……大切にします」
震える声でそう告げると、涙がひとしずく頬を伝う。

圭吾はその涙を見て、短く息をのんだ。
「……波瑠」

強い腕に引き寄せられ、胸に抱き込まれる。
「そんな顔をさせるために贈ったんじゃない」
低い声には叱るような響きがあるのに、抱擁は優しく、離そうとはしなかった。

「でも……嬉しくて。本当に嬉しくて……ありがとう」
波瑠は小さな声で呟き、彼の背に手を回す。

涙を拭ったあと、圭吾がふいに立ち上がった。
「……もうひとつあったんだ」

そう言って手にしてきたのは、長方形の箱。
リボンをほどくと、中から現れたのは、艶やかなシルクのスリップと、それに合わせて仕立てられた同色のスリッパのセットだった。

「……これ……」
驚きに声を失う波瑠。

「お前に似合うと思った」
圭吾の目が、彼女を上から下まで舐めるように見つめる。
「俺の贈ったものを纏って……ここで過ごしてほしい」

スリップの生地は淡い光を受け、滑らかにきらめいていた。
触れなくてもわかるほどに、肌に溶け込むような柔らかさ。

「波瑠……着てみろ」
圭吾の声音は、命令と甘やかな願いの狭間に揺れていた。

「い、今ここで……?」
恥じらう頬の色が、一層圭吾を熱くさせる。
「当たり前だ。俺が選んだんだから……」

そう言うと、彼の大きな手がスリップを取り上げ、ふわりと広げた。
絹の光沢が柔らかく揺れ、まるで彼女を誘うように艶めく。

圭吾は一歩踏み込み、彼女の肩にかかった服へ指をかけた。
「……待っ……圭吾」
震える声が漏れる。

圭吾の指先が服の端にかかった瞬間、波瑠は慌てて両手で押さえた。
「……だめです。自分で着ます」

必死な声。頬は真っ赤に染まり、瞳は揺れている。
それでも、どうしても譲れないという意志がにじんでいた。

圭吾はそんな彼女をじっと見下ろし、わずかに唇を歪める。
「……波瑠」
低い声が名前を呼ぶだけで、胸の奥が震える。

「……せめて、シャワーを浴びさせて。ね?」

波瑠は必死に目を逸らしながら、か細い声で言った。
頬は熱に染まり、指先は彼の手に押さえられたまま。

圭吾は一瞬黙り込み、じっと彼女の横顔を見つめた。
そして、ふっと小さく笑う。
「……わかった。だが、長くは待たせるな」


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