温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
圭吾の言葉を最後まで読み終え、波瑠はしばらく画面を見つめていた。
謝罪も後悔も伝わってくる。
けれど、もうその想いに応えることはできなかった。
(……私の中では、終わったことにしなければならない)
胸の奥に静かに刻まれる声に従い、波瑠は深呼吸をひとつ置いてから、返信画面を開いた。
指先は震えていたが、その心は不思議なほど穏やかだった。
『圭吾さんへ
これまで本当にありがとうございました。
誕生日を祝ってくれたことや、クリスマスに一緒に過ごした時間、心から感謝しています。
私は前を向いて歩いていきます。
どうか圭吾さんも、ご自分を大切にしてください。
さようなら』
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥の重さがふっと軽くなった。
しばらく画面を見つめたあと、波瑠は静かに連絡先のページを開いた。
迷いはなかった。
指先で削除を押すと、圭吾の名前と番号が跡形もなく消える。
「……これで終わり」
呟いた声はかすかに震えていたが、その瞳は澄んでいた。
もう涙は出なかった。
けれど、アルバムに並ぶ写真のフォルダを開いた瞬間、波瑠の胸は再び揺れた。
誕生日に笑顔でケーキを囲んだ一枚、イルミネーションの下で撮ったクリスマスの夜…。
削除のボタンに指をかけて…そっと外した。
(……これは消さない。思い出だから。大切にしたい)
圭吾との未来はもうない。
けれど、あの瞬間に感じた温かさまで否定することは、自分自身を傷つける気がした。
スマホを閉じ、波瑠はゆっくりと息を吐く。
「ありがとう」
小さくつぶやいた声は、穏やかに冬の部屋に溶けていった。
それから三日後。
波瑠の部屋は、がらんと静まり返っていた。
段ボールはすでに引っ越し業者によって運び出され、荷物は恵美の旅館の倉庫へ送られている。
家具や家電も処分してしまったため、残されたのは生活の痕跡だけ…床に日焼けの跡が残り、壁にはかつて飾っていた額縁の影が薄く浮かんでいる。
波瑠は最後に部屋をひと巡り見渡し、小さく呟いた。
「……ありがとう」
ドアを閉めた瞬間、音のない余韻だけが背後に残り、東京での生活は幕を下ろした。
羽田空港。
波瑠はチェックインを終え、搭乗ゲートへと向かっていた。
スーツケースを引く手は軽く、けれど胸の奥にはまだ少し痛みが残っている。
一方で、別のゲートではハワイ島からの直行便が到着していた。
長旅を終えた圭吾が人波にまぎれながら歩みを進める。
互いに数十メートルの距離。
同じ時間、同じ空港にいながら、その姿が重なることはなかった。
圭吾は足を止め、ざわめく人波の中で胸が急にざわついた。
(……波瑠に会いたい)
説明のつかない焦りと不安がこみ上げる。
けれど、そこに波瑠の姿はなかった。
波瑠は出発ロビーへ、圭吾は到着ロビーへ。
二人の足音は別の方向へ遠ざかっていく。
まるで、二人の気持ちがそのまま形になったかのように。
謝罪も後悔も伝わってくる。
けれど、もうその想いに応えることはできなかった。
(……私の中では、終わったことにしなければならない)
胸の奥に静かに刻まれる声に従い、波瑠は深呼吸をひとつ置いてから、返信画面を開いた。
指先は震えていたが、その心は不思議なほど穏やかだった。
『圭吾さんへ
これまで本当にありがとうございました。
誕生日を祝ってくれたことや、クリスマスに一緒に過ごした時間、心から感謝しています。
私は前を向いて歩いていきます。
どうか圭吾さんも、ご自分を大切にしてください。
さようなら』
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥の重さがふっと軽くなった。
しばらく画面を見つめたあと、波瑠は静かに連絡先のページを開いた。
迷いはなかった。
指先で削除を押すと、圭吾の名前と番号が跡形もなく消える。
「……これで終わり」
呟いた声はかすかに震えていたが、その瞳は澄んでいた。
もう涙は出なかった。
けれど、アルバムに並ぶ写真のフォルダを開いた瞬間、波瑠の胸は再び揺れた。
誕生日に笑顔でケーキを囲んだ一枚、イルミネーションの下で撮ったクリスマスの夜…。
削除のボタンに指をかけて…そっと外した。
(……これは消さない。思い出だから。大切にしたい)
圭吾との未来はもうない。
けれど、あの瞬間に感じた温かさまで否定することは、自分自身を傷つける気がした。
スマホを閉じ、波瑠はゆっくりと息を吐く。
「ありがとう」
小さくつぶやいた声は、穏やかに冬の部屋に溶けていった。
それから三日後。
波瑠の部屋は、がらんと静まり返っていた。
段ボールはすでに引っ越し業者によって運び出され、荷物は恵美の旅館の倉庫へ送られている。
家具や家電も処分してしまったため、残されたのは生活の痕跡だけ…床に日焼けの跡が残り、壁にはかつて飾っていた額縁の影が薄く浮かんでいる。
波瑠は最後に部屋をひと巡り見渡し、小さく呟いた。
「……ありがとう」
ドアを閉めた瞬間、音のない余韻だけが背後に残り、東京での生活は幕を下ろした。
羽田空港。
波瑠はチェックインを終え、搭乗ゲートへと向かっていた。
スーツケースを引く手は軽く、けれど胸の奥にはまだ少し痛みが残っている。
一方で、別のゲートではハワイ島からの直行便が到着していた。
長旅を終えた圭吾が人波にまぎれながら歩みを進める。
互いに数十メートルの距離。
同じ時間、同じ空港にいながら、その姿が重なることはなかった。
圭吾は足を止め、ざわめく人波の中で胸が急にざわついた。
(……波瑠に会いたい)
説明のつかない焦りと不安がこみ上げる。
けれど、そこに波瑠の姿はなかった。
波瑠は出発ロビーへ、圭吾は到着ロビーへ。
二人の足音は別の方向へ遠ざかっていく。
まるで、二人の気持ちがそのまま形になったかのように。