温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
次の日も観光を終えると、圭吾と綾香は再び柏木宅で夕食をご馳走になった。
ちょうど颯太も実家に戻っており、年が近い綾香とすぐに打ち解けると、二人で外へ遊びに出て行った。
残ったリビングで、柏木が酒を注ぎながら軽く笑う。
「松田さん、今回は父と娘の旅行なんですか?」
「はい。息子はもう独立していますし……妻とは十年前に離婚しています」
「そうなんですか。松田さんはいい男だから、もてるでしょう?」
からかうように言う柏木に、圭吾は苦笑で返す。
そのとき、柏木がさらりと口を挟んだ。
「独り身だったら……波瑠ちゃんにとって、ちょうどいいんじゃないか?」
「え?」
思わず圭吾の視線が由紀子に向く。
「あなた、松田さんに失礼よ、そんなこと言ったら」
由紀子が慌ててたしなめる。
だが、由紀子はどこか含みのある口調で言葉を続けた。
「それに……波瑠だって、もしかしたら…」
圭吾の胸に雷が落ちたように、血が騒ぎ出す。
もしかしたら、って……なんだ?
心臓の鼓動が速まり、胸の奥で抑えきれない衝動が膨らんでいく。
ただの冗談なのか、それとも…。
グラスを置きながら、柏木がふと語り出した。
「波瑠ちゃんはね、僕とは血がつながっていないんですよ」
「ええ……?」
圭吾が小さく眉をひそめる。
由紀子が穏やかに言葉を継いだ。
「私は前の夫と死に別れまして……柏木と再婚した時には、波瑠はもう高校を卒業していたんです。このまま日本に残って、大学を終えるって、自分で決めてね。それでずっと日本にいるんですよ」
圭吾の胸に新しい衝撃が走る。
波瑠は、日本に残ることを選んだのか。
柏木がにこやかに付け加えた。
「最近、四十になりましてね。いまだに独身なんです」
「いい娘なんですよ。思いやりがあって、周りの人を大事にして」
由紀子が柔らかな表情で語った。
「つい最近、珍しく波瑠のほうから連絡があったんです。素敵な四十歳の誕生日を過ごしたって。そりゃもう、喜んでいて……あんなにうれしそうな波瑠は、波瑠の父親が亡くなって以来、初めてでしたね」
圭吾の胸に熱が広がった。
それは、あの日、自分と過ごした時間のことだ。
言葉には出さなかったが、波瑠が本当に喜んでいたことを、こうして母親の口から聞けた。
それだけで十分だった。
由紀子は少し照れくさそうに笑みを添えた。
「ですから、母としては……いいご縁があったんじゃないかと期待してしまっているんです」
圭吾はグラスを持ち直し、心の中で深く頷いた。
あの時間は、俺だけのものじゃなかった。
波瑠にとっても、特別な一日だったのだ。
由紀子の言葉を受けて、圭吾は一瞬、驚きと安堵が入り混じるのを覚えた。
それでも表情を崩さず、かろうじて口を開く。
「……わかります。親として、娘の幸せを願うのは当たり前ですからね」
穏やかに返したものの、胸の奥では別の声が響いていた。
やっぱり、波瑠でなくてはだめだ。
彼女以外に、自分の人生を託せる相手はいない。
グラスを口に運ぶふりをしながら、圭吾はその思いを誰にも悟られぬよう、胸の奥に深く刻みつけた。
柏木の案内で島全体を観光した圭吾と綾香は、最後に深く礼を述べ、ホテルまで送ってくれた柏木夫妻と別れた。
別れ際には互いに連絡先を交換し、短い間に芽生えた縁を確かめ合うように握手を交わした。
部屋に戻った圭吾は、ベッドに腰を下ろし、すぐに携帯を開いた。
波瑠へのメッセージは、まだ未読のまま。
胸に苦さが広がる。だが今は、彼女が柏木夫妻と繋がっている事実が、確かな灯のように思えた。
「……大丈夫だ。必ず」
帰国したらどう動くか…どんな言葉で、どんな形で、彼女にもう一度向き合うか。
あれこれと計画を巡らせるうちに、まぶたが重くなり、圭吾は深い眠りに落ちていった。
ちょうど颯太も実家に戻っており、年が近い綾香とすぐに打ち解けると、二人で外へ遊びに出て行った。
残ったリビングで、柏木が酒を注ぎながら軽く笑う。
「松田さん、今回は父と娘の旅行なんですか?」
「はい。息子はもう独立していますし……妻とは十年前に離婚しています」
「そうなんですか。松田さんはいい男だから、もてるでしょう?」
からかうように言う柏木に、圭吾は苦笑で返す。
そのとき、柏木がさらりと口を挟んだ。
「独り身だったら……波瑠ちゃんにとって、ちょうどいいんじゃないか?」
「え?」
思わず圭吾の視線が由紀子に向く。
「あなた、松田さんに失礼よ、そんなこと言ったら」
由紀子が慌ててたしなめる。
だが、由紀子はどこか含みのある口調で言葉を続けた。
「それに……波瑠だって、もしかしたら…」
圭吾の胸に雷が落ちたように、血が騒ぎ出す。
もしかしたら、って……なんだ?
心臓の鼓動が速まり、胸の奥で抑えきれない衝動が膨らんでいく。
ただの冗談なのか、それとも…。
グラスを置きながら、柏木がふと語り出した。
「波瑠ちゃんはね、僕とは血がつながっていないんですよ」
「ええ……?」
圭吾が小さく眉をひそめる。
由紀子が穏やかに言葉を継いだ。
「私は前の夫と死に別れまして……柏木と再婚した時には、波瑠はもう高校を卒業していたんです。このまま日本に残って、大学を終えるって、自分で決めてね。それでずっと日本にいるんですよ」
圭吾の胸に新しい衝撃が走る。
波瑠は、日本に残ることを選んだのか。
柏木がにこやかに付け加えた。
「最近、四十になりましてね。いまだに独身なんです」
「いい娘なんですよ。思いやりがあって、周りの人を大事にして」
由紀子が柔らかな表情で語った。
「つい最近、珍しく波瑠のほうから連絡があったんです。素敵な四十歳の誕生日を過ごしたって。そりゃもう、喜んでいて……あんなにうれしそうな波瑠は、波瑠の父親が亡くなって以来、初めてでしたね」
圭吾の胸に熱が広がった。
それは、あの日、自分と過ごした時間のことだ。
言葉には出さなかったが、波瑠が本当に喜んでいたことを、こうして母親の口から聞けた。
それだけで十分だった。
由紀子は少し照れくさそうに笑みを添えた。
「ですから、母としては……いいご縁があったんじゃないかと期待してしまっているんです」
圭吾はグラスを持ち直し、心の中で深く頷いた。
あの時間は、俺だけのものじゃなかった。
波瑠にとっても、特別な一日だったのだ。
由紀子の言葉を受けて、圭吾は一瞬、驚きと安堵が入り混じるのを覚えた。
それでも表情を崩さず、かろうじて口を開く。
「……わかります。親として、娘の幸せを願うのは当たり前ですからね」
穏やかに返したものの、胸の奥では別の声が響いていた。
やっぱり、波瑠でなくてはだめだ。
彼女以外に、自分の人生を託せる相手はいない。
グラスを口に運ぶふりをしながら、圭吾はその思いを誰にも悟られぬよう、胸の奥に深く刻みつけた。
柏木の案内で島全体を観光した圭吾と綾香は、最後に深く礼を述べ、ホテルまで送ってくれた柏木夫妻と別れた。
別れ際には互いに連絡先を交換し、短い間に芽生えた縁を確かめ合うように握手を交わした。
部屋に戻った圭吾は、ベッドに腰を下ろし、すぐに携帯を開いた。
波瑠へのメッセージは、まだ未読のまま。
胸に苦さが広がる。だが今は、彼女が柏木夫妻と繋がっている事実が、確かな灯のように思えた。
「……大丈夫だ。必ず」
帰国したらどう動くか…どんな言葉で、どんな形で、彼女にもう一度向き合うか。
あれこれと計画を巡らせるうちに、まぶたが重くなり、圭吾は深い眠りに落ちていった。