温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
出発ゲート前、人の波の中で足を止めた綾香が、笑顔で振り返った。
「お父さん、ありがとう。すっごく楽しかった」
「そうか。俺もだよ」
圭吾の声は、不意にかすれる。
綾香は少し真剣な眼差しで続けた。
「……お父さん、波瑠さんって、いい人だね」
「……うん?」
不意を突かれた圭吾が眉を寄せる。
「柏木さんの娘さんでしょう? この間、お父さんたちが話しているのを聞いて、“この人だ!”ってわかったんだ」
「……そうか」
綾香はいたずらっぽく笑った。
「颯太くんが言ってたよ。お姉さんの波瑠さんにすごくかわいがってもらったって。すごく優しいんだってさ」
少し間をおいて、言葉を足す。
「でもね、ものすごく我慢をしちゃう人だから……我儘を聞いてくれる男性がいいんだって」
圭吾は返す言葉を失う。
すると綾香が、笑顔でとどめを刺すように言った。
「お父さん、女性の我儘、聞いてあげられるようにしないとね!」
「……っ」
たじろぐ父の姿に、綾香は声を立てて笑った。
やがてアナウンスが流れ、綾香は荷物を持ち直す。
「お父さん、じゃあ私、あっちだから。またね」
歩き出す直前、ふと立ち止まって振り返った。
「お父さん、幸せになってね」
その言葉を胸に、圭吾はしばし立ち尽くすしかなかった。
シートに身を沈め、窓の外を見やると、ハワイ島の大地がゆっくりと遠ざかっていった。
綾香の笑顔、柏木夫妻との出会い、そして波瑠の名を初めて耳にした夜。
あの日々は、ただの休暇ではなかった。
彼女の過去に触れ、彼女が確かに自分と同じ時間を喜んでいたことを知れた。
未読の画面は冷たく沈黙を続けているのに、それでも波瑠とのつながりを信じられる。
「……やっぱり、波瑠だ」
心の中でつぶやき、深く息を吐いた。
機体は青空を滑るように進み、圭吾を次の場所へと運んでいった。
胸に宿る決意だけを、確かな手荷物のように抱えながら。
ホノルルに到着すると同時に、怒涛のような仕事の日々が始まった。
会議、打ち合わせ、移動。息をつく暇さえない。
だが、どれほど仕事に追われても、心の奥では常に波瑠の名が脈打っていた。
ホテルに戻るたび、無意識のように携帯を確認する。未読のままの画面は変わらない。
そして、二日目の夜。
ようやく一人きりになったとき、通知の光が目に飛び込んできた。
波瑠からだった。
震える指で開く。
文字を追うごとに、胸の奥が焼けるように痛む。
「……さようなら」その言葉が刃のように心を切り裂く。
「……波瑠……」
声にした途端、涙が視界を滲ませた。
この手を伸ばしても、もう届かないのか。
抱きしめた温もりも、耳に残る声も、すべて過去になってしまうのか。
ソファに崩れ落ち、顔を覆った手が濡れていく。
嗚咽が堰を切り、誰にも見せたことのない弱さをさらけ出した。
それでも。
涙に滲んだ視界の奥で、彼女の笑顔が浮かぶ。
誕生日に見せた無邪気な笑み。
クリスマスに寄り添った温もり。
すべてが幻のように過ぎ去ることなど、決して許せなかった。
「……波瑠」
声は震え、だが次第に力を帯びていく。
「お前がどう言おうと……俺は諦めない」
絶望に押し潰されても、その奥から湧き上がる執念は消えない。
むしろ、強く、燃え上がる。
必ず取り戻す。
彼女の心を、人生を…そして、未来を。
煌めくホノルルの夜景は窓の外に広がっていた。
だが圭吾にとって、それはただ冷たく、残酷な光にしか見えなかった。
「お父さん、ありがとう。すっごく楽しかった」
「そうか。俺もだよ」
圭吾の声は、不意にかすれる。
綾香は少し真剣な眼差しで続けた。
「……お父さん、波瑠さんって、いい人だね」
「……うん?」
不意を突かれた圭吾が眉を寄せる。
「柏木さんの娘さんでしょう? この間、お父さんたちが話しているのを聞いて、“この人だ!”ってわかったんだ」
「……そうか」
綾香はいたずらっぽく笑った。
「颯太くんが言ってたよ。お姉さんの波瑠さんにすごくかわいがってもらったって。すごく優しいんだってさ」
少し間をおいて、言葉を足す。
「でもね、ものすごく我慢をしちゃう人だから……我儘を聞いてくれる男性がいいんだって」
圭吾は返す言葉を失う。
すると綾香が、笑顔でとどめを刺すように言った。
「お父さん、女性の我儘、聞いてあげられるようにしないとね!」
「……っ」
たじろぐ父の姿に、綾香は声を立てて笑った。
やがてアナウンスが流れ、綾香は荷物を持ち直す。
「お父さん、じゃあ私、あっちだから。またね」
歩き出す直前、ふと立ち止まって振り返った。
「お父さん、幸せになってね」
その言葉を胸に、圭吾はしばし立ち尽くすしかなかった。
シートに身を沈め、窓の外を見やると、ハワイ島の大地がゆっくりと遠ざかっていった。
綾香の笑顔、柏木夫妻との出会い、そして波瑠の名を初めて耳にした夜。
あの日々は、ただの休暇ではなかった。
彼女の過去に触れ、彼女が確かに自分と同じ時間を喜んでいたことを知れた。
未読の画面は冷たく沈黙を続けているのに、それでも波瑠とのつながりを信じられる。
「……やっぱり、波瑠だ」
心の中でつぶやき、深く息を吐いた。
機体は青空を滑るように進み、圭吾を次の場所へと運んでいった。
胸に宿る決意だけを、確かな手荷物のように抱えながら。
ホノルルに到着すると同時に、怒涛のような仕事の日々が始まった。
会議、打ち合わせ、移動。息をつく暇さえない。
だが、どれほど仕事に追われても、心の奥では常に波瑠の名が脈打っていた。
ホテルに戻るたび、無意識のように携帯を確認する。未読のままの画面は変わらない。
そして、二日目の夜。
ようやく一人きりになったとき、通知の光が目に飛び込んできた。
波瑠からだった。
震える指で開く。
文字を追うごとに、胸の奥が焼けるように痛む。
「……さようなら」その言葉が刃のように心を切り裂く。
「……波瑠……」
声にした途端、涙が視界を滲ませた。
この手を伸ばしても、もう届かないのか。
抱きしめた温もりも、耳に残る声も、すべて過去になってしまうのか。
ソファに崩れ落ち、顔を覆った手が濡れていく。
嗚咽が堰を切り、誰にも見せたことのない弱さをさらけ出した。
それでも。
涙に滲んだ視界の奥で、彼女の笑顔が浮かぶ。
誕生日に見せた無邪気な笑み。
クリスマスに寄り添った温もり。
すべてが幻のように過ぎ去ることなど、決して許せなかった。
「……波瑠」
声は震え、だが次第に力を帯びていく。
「お前がどう言おうと……俺は諦めない」
絶望に押し潰されても、その奥から湧き上がる執念は消えない。
むしろ、強く、燃え上がる。
必ず取り戻す。
彼女の心を、人生を…そして、未来を。
煌めくホノルルの夜景は窓の外に広がっていた。
だが圭吾にとって、それはただ冷たく、残酷な光にしか見えなかった。