温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
ソファに三人が腰を下ろすと、圭吾は持参したハワイ土産を差し出した。
「どうぞ。わずかですが」

「ありがとうございます」
美咲が受け取り、紅茶が湯気を立てるテーブルの上に置かれた。

しばしの沈黙のあと、美咲がまっすぐに圭吾を見据える。
「……圭吾さん。単刀直入にお聞きします。落合さんとは、どのような関係なんですか?」

圭吾は一瞬ためらいもせず答えた。
「――恋人です」

美咲の瞳がわずかに揺れる。
その前で、圭吾は低く続けた。

「俺は、彼女と結婚したいと思っている。だが……ハワイへ立つ前に、つまらない嫉妬で彼女を傷つけてしまった。彼女から別れを切り出された」

紅茶の香りに混じって、圭吾の声は苦く響いた。

「……それでも、俺は諦めきれない」

握った拳に力がこもる。
その強い視線に、黒瀬も美咲も言葉を失っていた。

美咲は湯気の立つカップに視線を落とし、ゆっくりと口を開いた。

「……落合さんは、とても強い人に見えます。でも、本当はとても繊細で、傷つきやすい方です」

圭吾の胸に鋭く響く。
美咲はそのまま言葉を紡いだ。

「そして――」
美咲は真っ直ぐに圭吾を見た。
「彼女は“自分の幸せよりも、相手を優先してしまう人”なんです。あなたの立場や周囲の目を考えて、自分が身を引くことを選んだ。それが別れの理由だと、私は感じています」

圭吾の胸に、重い衝撃が落ちた。
――あれは拒絶ではなかったのか。
彼女は、俺を思って別れを告げた……?

美咲はカップをそっと置き、圭吾を見据えた。
「圭吾さん、あなたは落合さんの誕生日を祝いましたね。その時、お二人が一緒に歩いている姿を見た社員がいたんです」

圭吾の表情が険しくなる。

「その社員が、噂を流しました。――“誰とでも寝る女に、松田専務が引っかかっている”と」

「……っ」
圭吾の拳がテーブルの上で震える。

「その日、彼女は顔色が悪かった。いいえ、その日からずっと、顔色が冴えなかった。俯くことも多くなった」
美咲の声には、憂いがにじんでいた。

「落合さんは、あのルックスと能力の高さゆえに、昔からいわれのない噂を流され続けていました。心配になった私は食事に誘って、事情を聴こうとしたんです」

圭吾は息を呑み、美咲の言葉に食い入る。

「すると彼女は言いました。――“専務を誘ったのは私なんです。誕生日を祝ってくれるよう、無理やりお願いしました”と」

圭吾は首を横に振りながら、低く唸った。
「……なんてことを……」

美咲は、静かに続ける。
「圭吾さん。落合さんはあなたをかばったんですよ。自分が悪者になってでも」

龍之介が腕を組み、低い声で口を開いた。
「……圭吾さん。どうしますか? これを聞いても、なお落合さんを追いかけますか?」

圭吾は一瞬も目を逸らさず、じっと龍之介を見据えた。
「――もちろんだ」

その目の奥に燃える光を確かめ、龍之介はゆっくりと頷く。
「……わかりました」
そして、テーブルに置いていた携帯を手に取り、素早く画面を操作した。
「では――覚悟を決めてもらおう」

部屋の空気が一気に張り詰め、紅茶の香りすら遠のいた。

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