温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
機体のタラップを降り立つと、南国の熱を帯びた空気が頬を包んだ。
東京の冬の冷え込みを思い返し、圭吾は一瞬だけまぶたを細める。
心地よい潮風に混じる花の香りが、彼を異国へと引き込んでいった。

空港の到着ロビーを抜けると、観光客を待つタクシーの列が見えた。
タクシーが緩やかなカーブを抜けると、住宅街の中に溶け込む白い平屋が見えてきた。
観光客向けの華美な別荘ではない。花の鉢が並ぶ玄関先と、木製のポーチ。
その素朴な佇まいに、圭吾の胸はかすかに和らいだ。

年末年始の旅行で一度ここを訪れたとき、柏木と由紀子が温かく迎えてくれた記憶がよみがえる。
「またいつでも来てください」と笑っていた由紀子の声。
その言葉に背中を押されるようにして、今こうして戻ってきたのだ。

タクシーを降りると、潮風に混じって甘いプルメリアの香りが漂った。
圭吾は運転手に料金を渡し、玄関へと歩を進める。

コンコン、とノックすると、間もなくドアが開いた。
現れたのは柏木だった。
「松田さん。ようこそ、またいらっしゃいましたね」

「急なお願いをしてすみません。……お時間をいただき、感謝します」
圭吾は深く頭を下げた。

「とんでもない。さあ、どうぞ。妻もお待ちしていました」

促されて家の中へ足を踏み入れると、懐かしい木の香りが鼻をくすぐる。
広くはないが、温かい灯りと整えられた家具が迎えてくれる居間。
ソファに腰掛けていた由紀子が立ち上がり、柔らかな笑みを浮かべた。

「松田さん。お久しぶりですね」

「……はい。お世話になります」
その瞬間、圭吾の胸は静かに高鳴った。
彼女こそが、波瑠の心を解く鍵を握る人物。
二度目の訪問は、もはや偶然ではない。必然だった。

圭吾は静かに名刺入れを取り出し、一枚を差し出した。
「私はこういう者です。——波瑠さんとは、取引先のプロジェクトを通じて知り合いました」

一拍の間を置き、彼はまっすぐに二人を見据える。
「そして……私は彼女に惚れました。そこから交際が始まりました」

居間に漂う沈黙。ハーブティーの香りだけが淡く漂う。

「交際は順調でした。ですが、ある日……私のつまらない嫉妬が原因で、波瑠さんを深く傷つけてしまったんです」

圭吾の声は低く沈み、悔恨が滲む。

「きちんと謝罪することもできないまま、時が過ぎてしまいました。そして——ハワイから日本へ帰った後に知ったのです。彼女が仕事を辞め、東京を離れてしまったということを」

最後の言葉を告げた瞬間、圭吾は視線を落とし、拳を膝の上で固く握りしめた。
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