温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
由紀子はしばし黙って圭吾を見つめていた。
やがて、静かに息を吐き、やわらかな声を落とす。

「……そうだったんですか。波瑠の誕生日を一緒に祝ってくださった方……それが、あなた——松田さんだったんですね」

その声音には、咎めるような鋭さはなく、むしろ深い納得と、どこか安堵すら混じっていた。

圭吾は背筋を伸ばし、力強くうなずいた。
「はい。……私です」

言葉にした瞬間、胸の奥にあった重石がひとつ外れる。

由紀子は、膝の上で組んだ手をぎゅっと握りしめるようにして言った。
「……私たちは、波瑠が今どこにいるのか、知りません」
その声音には深い悲しみが滲んでいた。
「心配をかけまいと、あの子はあまり自分からは連絡してこないんです。いつも、事後報告ばかりで……」

一瞬の沈黙ののち、由紀子は顔を上げ、圭吾を見つめる。
「電話をしてみましょうか?」

圭吾はゆるやかに首を振った。
「いえ……実は、波瑠さんから別れを切り出されてしまいました」
苦渋をにじませながら言葉を続ける。
「私はもう、彼女を追い詰めたくないんです」

由紀子の瞳が揺れる。
「……なら、どうしてここまでいらっしゃったんですか?」

圭吾の胸の奥から、熱が突き上げる。
「諦めきれないからです」
声は震えていなかった。力強く、確かな響きを持っていた。

「私の人生に、彼女がいなくては生きている意味がない。……けれど、ただ想いを押しつけるのではなく、まずは彼女に面と向かって謝りたいのです」

圭吾は拳を握りしめ、ゆっくりと告げる。
「だから……私は自分で彼女を見つけます」

その言葉に、居間の空気が張り詰めた。
由紀子は深く息をつき、圭吾の真剣な眼差しを確かめるように見つめ返していた。

圭吾は背筋を正し、由紀子の瞳をまっすぐに見据えた。
「由紀子さん。——あなたに、お訪ねしたいことがあって、ここまで参りました」

「……なんでしょう?」
由紀子は少し驚いたように首を傾げる。

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