温厚専務の秘密 甘く強引な溺愛
岩国錦帯橋空港に降り立つと、空はすでに冬の青に澄み切っていた。
レンタカーのハンドルを握り、圭吾は瀬戸内の海沿いの道を走らせる。
穏やかな波がきらめき、遠くに大小の島々が浮かんでいる。
「……ここが、彼女のいた夏の原風景か」
車窓から流れる景色に、圭吾は静かに呟いた。
東京の喧騒とはまるで違う、ゆるやかな時間の流れがここにはあった。
やがて「周防大島町」の標識が現れる。
橋を渡り、島へ入った瞬間、胸の奥が強く震えた。
——この島に、波瑠がいる。
港町を抜け、細い坂道を上がっていくと、緑の木々の間に広大な敷地が広がった。
白壁と瓦屋根を基調とした建物は、伝統の趣を残しながらもガラス張りのロビーや回廊が組み合わされ、洗練された高級リゾートの風格を漂わせている。
正面玄関には重厚な木製の看板が掲げられ、墨文字で「花月」と刻まれていた。
玄関に足を踏み入れた瞬間、檜の香りと静かな琴の調べが迎えてくれた。
広々としたロビーの天井には梁が渡り、ガラス越しに瀬戸内の海が一望できる。
伝統と洗練が見事に調和した空間だった。
「ようこそ、花月へ」
女将らしい女性が姿を現し、深々と頭を下げる。
黒髪をきちんと結い上げ、所作の一つひとつに凛とした気配が漂っていた。
圭吾は名を告げ、宿帳に署名を済ませた。
チェックインを終えると、おかみはにこやかに手を差し伸べる。
「松田様のお部屋は、離れのヴィラでございます。どうぞこちらへ」
案内されたのは庭園を抜けた先に建つ独立した棟。
石畳の小径を歩くたびに、松の葉を揺らす風が耳をかすめる。
ヴィラの引き戸が開かれると、そこには広々とした和洋折衷の空間が広がっていた。
檜風呂のある浴室、畳敷きの居間、大きな窓からは瀬戸内海が光を反射し、きらめいている。
圭吾は思わず息をのんだ。
——素晴らしい
荷物を置き、窓辺に立つ。
視線の先に広がる海と島々は穏やかで、どこか彼女の気配を感じさせた。
荷物を置き終えると、女将は丁寧に一礼した。
「それでは、失礼いたします」
出ていこうとする背に、圭吾がふと思い立って声をかけた。
「このあたりで、一番近い海岸はどこですか?」
女将は立ち止まり、柔らかく微笑んだ。
「はい、メインエントランスを出て左にお曲がりいただくと、すぐに海岸へ通じる小道がございます。夕暮れ時には、とても美しい景色がご覧になれますよ」
「……そうですか。ありがとうございます」
軽く会釈する圭吾の目は、すでに窓の外の海へと向けられていた。
その視線には、ただの観光客にはない切実な色が宿っていた。
女将が静かに襖を閉め、足音が遠ざかる。
残された圭吾はしばし動かずに立ち尽くした。
——波瑠も、きっとこの海を見ている。
胸の奥が熱く疼き、彼はゆっくりと息を吐いた。
レンタカーのハンドルを握り、圭吾は瀬戸内の海沿いの道を走らせる。
穏やかな波がきらめき、遠くに大小の島々が浮かんでいる。
「……ここが、彼女のいた夏の原風景か」
車窓から流れる景色に、圭吾は静かに呟いた。
東京の喧騒とはまるで違う、ゆるやかな時間の流れがここにはあった。
やがて「周防大島町」の標識が現れる。
橋を渡り、島へ入った瞬間、胸の奥が強く震えた。
——この島に、波瑠がいる。
港町を抜け、細い坂道を上がっていくと、緑の木々の間に広大な敷地が広がった。
白壁と瓦屋根を基調とした建物は、伝統の趣を残しながらもガラス張りのロビーや回廊が組み合わされ、洗練された高級リゾートの風格を漂わせている。
正面玄関には重厚な木製の看板が掲げられ、墨文字で「花月」と刻まれていた。
玄関に足を踏み入れた瞬間、檜の香りと静かな琴の調べが迎えてくれた。
広々としたロビーの天井には梁が渡り、ガラス越しに瀬戸内の海が一望できる。
伝統と洗練が見事に調和した空間だった。
「ようこそ、花月へ」
女将らしい女性が姿を現し、深々と頭を下げる。
黒髪をきちんと結い上げ、所作の一つひとつに凛とした気配が漂っていた。
圭吾は名を告げ、宿帳に署名を済ませた。
チェックインを終えると、おかみはにこやかに手を差し伸べる。
「松田様のお部屋は、離れのヴィラでございます。どうぞこちらへ」
案内されたのは庭園を抜けた先に建つ独立した棟。
石畳の小径を歩くたびに、松の葉を揺らす風が耳をかすめる。
ヴィラの引き戸が開かれると、そこには広々とした和洋折衷の空間が広がっていた。
檜風呂のある浴室、畳敷きの居間、大きな窓からは瀬戸内海が光を反射し、きらめいている。
圭吾は思わず息をのんだ。
——素晴らしい
荷物を置き、窓辺に立つ。
視線の先に広がる海と島々は穏やかで、どこか彼女の気配を感じさせた。
荷物を置き終えると、女将は丁寧に一礼した。
「それでは、失礼いたします」
出ていこうとする背に、圭吾がふと思い立って声をかけた。
「このあたりで、一番近い海岸はどこですか?」
女将は立ち止まり、柔らかく微笑んだ。
「はい、メインエントランスを出て左にお曲がりいただくと、すぐに海岸へ通じる小道がございます。夕暮れ時には、とても美しい景色がご覧になれますよ」
「……そうですか。ありがとうございます」
軽く会釈する圭吾の目は、すでに窓の外の海へと向けられていた。
その視線には、ただの観光客にはない切実な色が宿っていた。
女将が静かに襖を閉め、足音が遠ざかる。
残された圭吾はしばし動かずに立ち尽くした。
——波瑠も、きっとこの海を見ている。
胸の奥が熱く疼き、彼はゆっくりと息を吐いた。