らくがきの中の君を、彷徨って見付けてさよならと言って
「あ、ねぇ今日も部活行く?もうコンテストに出すやつ描き終わっちゃったけど」

「行くよ」

なんだか千颯の顔を見るのが恥ずかしくなって、視線をそらしたつもりだったのに千颯がこっちを向いたから。

「行くだろ、咲茉も」

視線を、外せなかった。

目が合ってしまった。


少し緊張しちゃった。


「い、行く!」

ふって、笑うから。

私を見て笑うから。


こそばゆい気持ちになって。


「何、どもってんだよ」

めっちゃ笑うから…

「ちょっと噛んだだけだし!」

「そんな一言噛むなよ」

くすくす下を向いて笑うから。
…そんなに笑わなくてもいいじゃんか。

「今日もいっぱい描くから!」

「へぇーやる気じゃん」

「やる気だよ、すっごいやる気!」

また勇気がわいてきたからね、描きたいって気持ちが溢れてくる。

この思いをキャンバスに描けたら…

「ねぇ千颯」

「ん-」

「絵描くの楽しい?」

「楽しい」

春風が気持ちいい。
それだけで嬉しい、目に映るものすべてに思いを馳せられる気がして。

「咲茉は?」

まだ先のことなんてわからないけど、私には絵がある。好きなものがある。

「私もめーっちゃ楽しい!」


千颯がいる。


だから今日も描いて、それでよかった。

それがよかった。



飾られた千颯の絵を見るまでは。


< 11 / 25 >

この作品をシェア

pagetop