らくがきの中の君を、彷徨って見付けてさよならと言って

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「ただいま」

玄関のドアを開けたらキッチンの方から“おかえり~”って声が返って来た。

いい匂いがする、今日はシチューかな。お母さんの作るビーフシチューはおいしいからね。

「……。」

ローファーを脱いでスリッパに履き替えると目の前に飛び込んでくるのは飛行機の絵。
私が小学生の頃描いた絵が額縁に飾ってある、まるでお出迎えしてくれるみたいに。

「これいつまで飾る気なんだろ」


橋本咲茉、小学2年生。金賞。

地元のコンテストに応募して賞を取った私の絵。


いつ見ても堂々として、我ながらよく描けたなぁって懐かしい思いにふける。

わざわざこんな額縁に入れるくらいなんだからお母さんも張り切ってたな、地元のコンテストだけど新聞に名前も載ったもんね。


これはまだ千颯と会う前の絵。


「もうご飯だから着替えて来なさいよ」

ダイニングの方へ向かうと今日はやっぱりシチューだった。テーブルにはサラダとパンも置いてあって急にお腹が空いてきた。

「うん、すぐ行ってくる」

階段を上がって自分の部屋へ、制服からテキトーな服に着替えてもう1度ダイニングへ向かった。

シチューも並べられた自分の席に座る。
今日もお父さんは仕事で遅くなるっぽい、だからお母さんと2人向き合って手を合わせた。

スプーンですくってひとくち。
うん、おいしい。おかわりしよ、食べ終わる前からそう決めてふたくちめをスプーンですくった。

「咲茉、進路希望調査は出したの?」
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