下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
第三章
『私はジーナ。貴方の祖母です。これから貴方は私と一緒に暮らします』
ああ…、これはジーナおばあちゃんと初めて会った時の記憶だ。淡い絵の具が掠れたような背景でこれが夢だとわかる。両親が事故で亡くなって暫くしてから、彼女は私の前に現れた。私はまだ五歳だった。
ある日、突然いなくなった両親。これまで会った事も話を聞いた事もない祖母との慣れない二人暮らし。最初の頃は戸惑う一方で辛かった記憶しかない。
生計を立てるためにジーナおばあちゃんは、両親が営んでいた生地の卸問屋の店を利用して、お針子の仕事を始めた。
『シャルロット』はニコラの母親の名前で、祖母がこの店を開いた時に付けたものだった。
ジーナおばあちゃんは、私にたくさんのことを教えてくれた。食事の作法や丁寧な言葉遣い、文字の読み書きに簡単な計算まで。二人での生活がようやく落ち着いてきたある日、おばあちゃんは私に裁縫を教えてくれるようになった。針の持ち方、布の扱い方、糸の選び方……裁縫に対しては容赦がなかった。集中力が切れて縫い目が乱れると、すぐにそれを見抜かれて、手の甲をぴしゃりと叩かれることもあった。でも、少しずつ針の扱いが上手くなっていくと、小さな仕事を任せてくれるようになった。それがとても嬉しかった。 教えてもらったことが一つできるようになるたび、新しい課題が与えられる。技法を習得すればするほど、表現したいことが次々に形になっていく……気づけば私は裁縫の世界に夢中になっていた。
『ニコラ、いいこと?』
夢の中のジーナおばあちゃんが、刺繍枠を手に静かに語りかけてくる。
『針に糸を通して、決まったところをなぞるだけなら、それは誰にでもできること』
『想いを込めることが大切なの』
『想いを込めた分だけ、その刺繍に命が宿るのよ……』
これは、ジーナおばあちゃんが刺繍を教えてくれるとき、いつも言っていた言葉だった。
笑顔を見せることは滅多になかったけど、私はジーナおばあちゃんが大好きだった。
今はもう、その声を聞くことはできない。
ああ…、これはジーナおばあちゃんと初めて会った時の記憶だ。淡い絵の具が掠れたような背景でこれが夢だとわかる。両親が事故で亡くなって暫くしてから、彼女は私の前に現れた。私はまだ五歳だった。
ある日、突然いなくなった両親。これまで会った事も話を聞いた事もない祖母との慣れない二人暮らし。最初の頃は戸惑う一方で辛かった記憶しかない。
生計を立てるためにジーナおばあちゃんは、両親が営んでいた生地の卸問屋の店を利用して、お針子の仕事を始めた。
『シャルロット』はニコラの母親の名前で、祖母がこの店を開いた時に付けたものだった。
ジーナおばあちゃんは、私にたくさんのことを教えてくれた。食事の作法や丁寧な言葉遣い、文字の読み書きに簡単な計算まで。二人での生活がようやく落ち着いてきたある日、おばあちゃんは私に裁縫を教えてくれるようになった。針の持ち方、布の扱い方、糸の選び方……裁縫に対しては容赦がなかった。集中力が切れて縫い目が乱れると、すぐにそれを見抜かれて、手の甲をぴしゃりと叩かれることもあった。でも、少しずつ針の扱いが上手くなっていくと、小さな仕事を任せてくれるようになった。それがとても嬉しかった。 教えてもらったことが一つできるようになるたび、新しい課題が与えられる。技法を習得すればするほど、表現したいことが次々に形になっていく……気づけば私は裁縫の世界に夢中になっていた。
『ニコラ、いいこと?』
夢の中のジーナおばあちゃんが、刺繍枠を手に静かに語りかけてくる。
『針に糸を通して、決まったところをなぞるだけなら、それは誰にでもできること』
『想いを込めることが大切なの』
『想いを込めた分だけ、その刺繍に命が宿るのよ……』
これは、ジーナおばあちゃんが刺繍を教えてくれるとき、いつも言っていた言葉だった。
笑顔を見せることは滅多になかったけど、私はジーナおばあちゃんが大好きだった。
今はもう、その声を聞くことはできない。