下町育ちのお針子は竜の王に愛される〜戴冠式と光の刺繍〜
「レースがあれば、もっと華やかにできたんですけど……」

 ニコラは照れ笑いする。

「レース?レースをどこにどうするの?」

 興味津々な女性に、ニコラが装飾の案を説明していると、

「あらあら、いたいた」

 垣根からネフィリスがひょっこりと顔を出した。

「急に姿が見えなくなるから、みんな心配して探してたわよ?……あら?さっきとお召し物が違うような?」
「ふふっ。ネフィ様もそう思うでしょう?でも残念、さっきと同じドレスなのよ」
「うそ、全然印象が違うわ」
「この子が手を加えてくれたの」

 女性は誇らしげにニコラの肩に手を置いた。

「へぇ!貴方がこれを?」

 ネフィリスは感心したようにニコラを見つめる。

「では、私はみんなにこれを見せてくるわ。貴方、あとで名前を教えてね。ご機嫌よう」

 軽やかな足取りで女性はその場を去った。お茶会に合流した彼女はニコラが手を加えた花のアレンジを自慢しており、他の女性たちは称賛しているようだった。
 ニコラはほっと息をついた。

「上手いことやったわねぇ」
「え、あ、ありがとうございます!でも、そんなに難しいアレンジじゃないんです」

 ネフィリスは苦笑した。

「そうじゃなくて。あの子の母親が王族の血筋なの。大分遠いけどね。気に入られたなら、これからずいぶん楽になると思うわよ?」

 ネフィリスはニコラに向かってウインクした。
 一体何のことを言われているのかニコラはわからなかったが、少し間があって、貴族に取り入ったと思われているのでは、と考えついた。

「あ、あの!私はその、下町でお針子をしていて、ずっと王宮で仕事をするわけではないんです」
「あら?そうなの?」
「はい。今回はちょっと事情があって、でも……」
「でも?」
「……でも、貴族の方も下町の人も、私にとって同じ……大切なお客様です」

 少し遠くにライアンの呼ぶ声が聞こえた。声の方を見ると、手を振っている彼がいた。馬車の準備ができたようだ。
 ニコラはネフィリスに一礼して、その場を後にした。

「ふーん。いい子じゃない」

 去っていく背中を見送りながら、ネフィリスは優しく微笑んだ。
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