溺愛している娘は俺の宝物だった
 7


 私の歌声は、父と弟と逃げた外国で開花した。

 お世話になったモダンな喫茶店で、父に勧められ歌ってみたのが始まりだった。

 癒しをもたらす稀有な歌声と、聴いてくれたすべての人々は拍手し、私を褒めてくれた。

 生みの親である母親の俳優としての、プライド高く気性の荒さ。

 それは、私や弟、父の扱いをぞんざいに扱う始末。

 先天性の心臓の弱い弟のため、父はまずは生まれたての彼だけ連れて、母から逃げ出した。

 私は、母の目を逸らすための囮だった。

 母は、見目麗しく家事ができる父に執着していたので、私が犠牲になり残るが、二人を守るためなら後悔はしていない。

 一年後、父は心配して私を迎えに来てくれて外国へ逃亡した。

 14歳の私は、年齢をごまかして学校にも行かず、父とともに幼い弟の医療費のために、再婚した彼の妻の喫茶店で働いていた。

 家に実母のピアノがあったので、私はそれがとても好きで毎日時間あれば練習していて、楽譜も理解し難曲も弾けるようになっていた。

 もともと芸人になる前の父は、ミュージカルスターの夢を挫折した過去があり、私は彼の血筋の中にある絶対音感を持っている。

 それが功を奏してくれて、父の再婚相手の勧めでピアノとともに歌も練習し、歌えるようになる。

 すぐにピアノも歌も人気は出て、私の初恋相手である彼にも出会えた。

 でも母に見つかり人気が出たことを気づかれ、私は父と弟の盾となり、日本へ連れ戻される。

 歌は本物だったのか、私は正体を隠して売れたが、それでもそれは長くは続かない。

 ストレスと成長期のせいなのか。

 休みのない日々の過酷な労働のせいなのか。

 半年もしないうちに、歌う時だけ過呼吸になり、声が出なくなった。

 いつ歌えるようになるのかは原因不明で、それは誰にもわからない。

 それは今も変わらない。

 彼は、稀有だと言われた歌とは関係なく、私を守ってくれると言ってくれている。

 彼は、名家の息子であり、若い時から自分で起業した様々な事業を成功させ、それなりに力はあるけど。

 それよりも何よりも私の初恋相手で、とても愛おしい存在だけど。

 私自身彼に言ったこととは真逆で、できる限りそばにはいたいけど。

 私には、自信はない。

 いつ歌えるか、わからないから。

 彼を信じているけど、いつ歌えるかわからない私、いつかは飽きられてしまう?

 それまでの間だけでも、そばにはいたい。

 できることなら、ずっと。

 それは歌えることを含めて、私ではわからないこと。

 彼には、私のために無理はして欲しくない。

 何よりも誰よりも愛おしいから。

 そばにいたいと願う私の祈るような気持ちは、真実で、それはどうしても抑えきれずにいたーー。

< 16 / 17 >

この作品をシェア

pagetop