俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
俺は決意を固めて、その、凪いだ海を思わせる美しい瞳を直視した。

「その姿、ここよりずっと似合うところを知ってますよ」

キラン、と、ほんの一瞬その瞳がいやぁ~な感じで煌いた。なんていうか、そのいやぁ~な感じの目つきのほうが俺の中でしっくりくることに、いささかの不満を覚える。
そうか、霊が憑いているといっても、元は殿なんだ。

心の奥底には、ナルシスト精神がふんだんに眠っているに違いない。
まぁ、出来ればそのまま二度と目覚めないで欲しい精神ではあるが。

「へぇ。じゃあ、折角だから連れて行ってもらおうかな」

ほんの少しだけ、殿の声が上ずったのを俺は聞き逃さなかった。
なんとなく、そんじょそこらの霊よりは殿のナルシスト精神の方がずっと強い気がする。除霊出来ないままに眠っているナルシスト精神が目覚めでもしたら、永遠に一人コントでもしてそうだ。あるいは、霊が諦めて自ら逃げ出すか。

やはり、除霊してもらうに越したことは無い。

「ええ、是非」

何でも無い表情を作るのも、結構大変だ。
俺は、先日部費で購入したばかりの、写真部の宝、デジタル一眼レフを手にとって、殿と一緒に撮影所を後にした。
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