俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
5.
階段を上りきったところ、つまりようやく屋上へと辿りついた。
俺はがしゃりと鍵を開ける。

「ここが?」

殿はそこで初めて首を傾げた。
ふむ。やはり、霊が憑いていてもアホはアホなんだな。

普通、延々と階段を上がっている時点で行き着く先は屋上ではないかと薄々気づきそうなものだが。

「ええ、青空の下って和装にぴったりですよね」

口から出任せ。

「特に、殿の和装姿には」

そして、ダメ押し。

ニカっと、それはそれは幸せそうな笑顔が浮かぶ。
良かった。ものすごく賢い霊とかが憑いているのではなさそうだ。

まぁ……殿に憑くくらいだもんな。
それなりの霊なんだろう、なんて適当なことを考えて自分を納得させていた。

がちゃり、と、ドアを開けた瞬間。

びゅん、と、何かが俺の頬を掠めた。

「ひええええっ」

俺は慌てて横っ飛びする。
手で、写真部のお宝、デジタル一眼レフ略してデジイチだけはなんとか抱え上げ大惨事は免れたが、お陰で背中をしこたまコンクリートの床に打ち付けるはめになってしまった。

うう。体重が重いと、こういうときに背中にかかる重みも常人のそれよりぐんと上回る。
俺は、知らず低いうめき声をあげていた。


「俺を写すカメラは、大丈夫か?」

殿が真顔で心配している。
ああ、やはり。憑かれていても、殿は殿なんですね。

背中の痛みと同じくらい、走った心の痛みに、俺はちょっとだけセンチな気分になって思わず涙が溢れそうに……


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