俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
「じゃあ、お母さん今日はもう帰るわね。バナナはここに置いておくわ」

俺の無事を確認した母親が病室を出て行く。
見舞いの品、皆が揃いもそろって持って来てくれたのだろう。

よく見渡すと、傍においてあるサイドテーブルの上はバナナが山のように盛られていた。
しかも、下のほうのバナナは既に茶色くなっている……気がする。
それを案じてか、上のほうには緑色のバナナが沢山置いてある。

これは、気遣ってくれてありがとうと、礼を言うべき事態なんだろうか。
まだまだ俺が目覚めなかったら、この下のほうの発酵しかけたバナナ、どう処理するつもりだったんだろうか……。
むむむと、俺は頭を捻っていた。

とりあえず聞いてみよう。

「えっと、俺、どのくらいここに?」

「そ、そうね。
三日間ってとこかしら」

巫女さんの目は明らかに泳いでいる。それも、宇宙遊泳レベルだ。

少し離れたところで、壁にかけてある鏡の中のご自分に夢中だった殿が、離れ難そうにこちらを振り向いた。
いや、こっちに来て下さらなくて結構ですよー、という心の叫びが通じるわけもなく。(口に出したって通じないだろうが)

そこからそんなに距離も無いのに、背筋をぴんと伸ばしまるで一本の線の上を歩くように脚を滑らせて歩いてくる。そう、モデル歩きの見本のような素敵な歩き方だ。
問題は、その顔がずっと得意げに右斜めをずっと向いていることだろうか。
ご丁寧に、俺には見えない架空の観客にお礼のつもりか手まで振って笑顔で応えていらっしゃる。

そんな不自然な歩き方をする人、舞台以外で見たことが無い。
完璧でカッコイイが、日常生活で見かけると違和感しか感じない。

しかし、殿はそのままやってくると、とん、と俺の肩に今まで振っていた右手を置く。
左手は自分の腰に。右ひざは少し曲げて。

ああ、この際どうでもいいや。観察していちいち理解していくのすら面倒になってきた。とにもかくにも、殿は相変わらず傍から見たらみょうちくりんな、しかし、本人はいたって大真面目に素敵だと思い込んでいるポーズを取りながら俺に微笑みかけていた。

「案じるな、バナナ。起きていようが寝てようが時間の流れは平等だ」

えーっと。
説得力ゼロですが?

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