すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 私が答える前に、王子はさらに続けた。

「我が国もこれから聖絵師の育成に力を入れるつもりだ。その先駆けとして、レイラを皆に紹介したい。君がよければの話だが」

 突然の申し出に、私は息をのんだ。
 光の絵を描くことは誇示するものではないと思っているから。
 けれど、この国のためにできることがあるのなら、それを拒絶するつもりはないし、何より王子殿下の真摯な願いを拒む理由もない。

「はい、構いません」
「絵を披露してもらうことも可能かな?」
「月が出ていれば描けます」
「そうか。ありがとう」

 王子の穏やかな声に、少しだけ胸の緊張がほどける。
 だが同時に、これからの舞台を思うと鼓動が高鳴った。

 パーティ会場にはセリスとアベリオ、そして父もいる。
 だけど、もう逃げたくないから、今の私を堂々と見てもらうことにしようと思った。

 沈黙する私の肩に、エレノア様の温かい手が触れた。

「何も心配しなくていいわ。だってここには、あなたの味方がこんなにいるのだから」

 顔を上げると、ハルトマン侯爵、カレン、エレノア様、そしてエリオスが微笑んでいた。

 その光景に胸が熱くなる。
 スレイド家を出ることになったあの頃とはあまりに違うものだから。

 絶望に打ちひしがれていたあのときには、到底考えられないことだった。


「はい」

 笑顔でそう答えると、私は彼らとともに再びパーティ会場へ向かった。

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