すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「ねえ、アベリオ。私、結婚式には王都一のデザイナーにドレスを仕立ててもらいたいの」
「……考えておくよ」
「ねえ、お願い。絶対よ」

 アベリオの声さえ、もう遠い。


 御者が鞭を振り上げ、馬の嘶きとともに馬車が動き出した。
 私は最後にちらりと外へ視線を向けた。

 けれど、彼らはもう、誰ひとりとして私を見てはいなかった。


 右手は医師にもらった塗り薬で腫れは収まったが、異形のように変わった状態はどうにもならなかった。
 手の感覚はなく、筆を握るどころか、フォークを持ったり何かを掴むこともできない。
 この醜い手をさらさないようにと父に言われ、大きな手袋を被せている。


 もう、すべてがどうでもよかった。
 希望など欠片も残されていないのだから。

< 30 / 231 >

この作品をシェア

pagetop