すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
 けれど、今はそんなことを考える余裕はない。
 目の前に迫る現実が残酷なまでに押し寄せる。
 異国に売り飛ばされる運命が、私の理性を容赦なく揺さぶった。

 彼らの話では貴族の妾になるか、娼館で働くか、あるいは犯罪組織でぼろぼろになるまで使われるか。
 恐怖に打ち震える。

 逃げなければ――


 馬車に置かれた小さな荷物を抱え、私は夕暮れに染まる森の中へ足を踏み入れた。
 日が落ちて夜が近づいてくる。
 けれど、足を止めることはできなかった。


 すっかり日が暮れて、夜の森をさまよった。
 風に揺れる木々のざわめきが、まるで私を嘲笑うかのように聞こえる。
 喉はカラカラに乾き、目眩がして、今にも倒れそうだった。
 それでも、ただひたすら歩いた。

 もうこの上なく絶望を感じていた私には、恐怖心など欠片もなかった。

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