すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~
「なぜ、あの森へいらしたのですか? 何か用事があったのでは?」
「ああ。そのことだが、不思議な感覚がしてね。辺境伯領へ視察に向かった帰りだったのだが、あの森を通りかかったときに、何か胸の奥が熱を帯びるような感覚がした。同時に月明かりがやけに明るく感じられたんだ。俺には景色を見ることはできないが、何かに引き寄せられるような感覚だった」
「それで、馬車を降りて?」
「ああ。彼には怒られたけどね。侍従のサイラスだ」

 サイラスと呼ばれた男性がこちらを向いて口を挟んだ。


「まったく。エリオス様の気まぐれにはほとほと困らされます。しかし、大変いいものを拝見しましたし、素晴らしい出会いもありましたので、責めることはやめておきましょう」
「ああ、そうしてくれ」

 サイラスはそのあと、窓の外へ視線を向けて呟くように言った。

「いつもは通らない道を指示されたときから不思議に思っていましたが、これも天のお導きでしょうか」

 エリオスは静かに目を閉じたまま、ふっと笑った。


 車窓から見える月がひときわ美しかった。
 私の心の傷が、ほんの少し、癒えた気がした。

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