皇帝になった幼馴染みの溺愛が止まりません
背の低い私は、どうしても祖父のように高い枝に手が届かない。

「アンヌ、もういい。降りておいで。」

「はい。」

脚立から降りると、祖父が静かに告げた。

「今日も、あの時間だ。」

──あの時間。

それは、宮殿の庭で咲いたバラを摘み取り、皇帝となったヴィックに届ける時を意味していた。

思えば、ずっとそうしてきた。

幼い頃、一緒に駆け回った帰り道に、照れながら花を渡したこと。

少しずつ彼を意識し始めた十代の頃、鼓動を隠しながら届けに行ったこと。

前皇帝が亡くなり、彼が皇太子となったときにも──。

そして今。

堂々たる皇帝となった彼に、私は変わらず花を手渡し続けている。

立場は違っても、時は流れても、変わらぬものがある。

その一輪のバラに、幼い日々と初恋の想いが重なっている気がして、胸がじんわりと熱くなるのだった。
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