あやかし×コーデ

3、気に入った


「どんな服でもいい」
「いや、好きなものと嫌いなもの、あるでしょ」
「何でもいいんだ。みっともなくなければな」

 まあ、その汚れた服じゃ目立つもんね。汚れてなくても目立つだろうけど。

「……お前が選べ」
「え? 私?」

 さっきから何でそんなに命令口調なの?! 初対面でしょ私達! いくらお客さんだからって失礼だよ!
 なんて文句が出てくる前に、私の頭にひらめくものがあった。

「じゃあ……こんなのは?」

 急いで服のかかっているラックに飛びついて――どこに何があるかはもうすっかり頭に入っている――一枚の服を取りだした。

「これ! これ、あなたに絶対似合う!」

 それはロング丈の上着だった。着物をリメイクしたもので、黒地に赤い花の絵が入った、すごく派手な柄だ。
 実はこれ、百合子おばあちゃんに手伝ってもらって三ヶ月前に私が作ったものなんだ。
 子供用サイズだし、とにかく派手だし、普段着って感じじゃないしで、全然売れなかったやつ。

「ねえ、体に当ててみて!」

 態度の割に素直な少年は、私の指示にしたがってくれた。
 ――あ……。

「すっ……ごい、似合うよ!」

 ミステリアスで大人っぽい顔立ち。すらっとした体。派手な柄にも負けない美少年だからこそ、この服が似合う。
 ううん、この子が着るために存在している服みたいだ。

「ね、ね、鏡見てよ。似合うでしょ?」

 ぐいぐい押して、少年を鏡の前に立たせた。

「……」

 少年が無言なのも構わないで、私は他の服もみつくろった。下のズボンは形の変わったサルエルパンツ。インナーのシャツは白。
 うんうん、これ、絶対似合うわ。自信ある!

「着替えてみませんか?」

 と私は店員スマイル。似合うはずだから、着てみてほしかった。これを着たところを見てほしい。
 が!
 なんと少年はここで服を脱ぎだそうとする!

「ストップストーーーーップ! 女子の前で着替えをするな!」
「何故ダメなんだ。俺は構わないぞ。面倒くさいな」
「私が構うの! そっちに試着室があるから、そこで脱いで!」

 不満そうな少年を、カーテン付きの試着室に押しこんだ。
 焦った……、と額の汗をぬぐっている間に、さっさと着替えた少年が出てくる。
 私は彼の姿を見た瞬間、感動で目をいっぱいに見開いた。

「やっぱり……! そのコーデ……超……似合う!」

 どことなく品があって、でもカジュアル。コスプレすぎずに普段着でもいけそうだ。この子なら、だけどね。
 私の勘は間違ってなかった! 完璧なコーデだ!
 ……問題は、本人が気に入るか、だけど。

「ええと……どうですか? 私としては、オススメですけど」

 おそるおそる少年の様子をうかがうと、鏡で自分の姿を見つめていた彼は、軽くうなずいた。

「ああ。気に入った」

 やったーーーーーー!
 思わずガッツポーズが出ちゃう。
 結構お高い服だから、子供がお小遣いで買えるものでもないんだけど、少年はどこからかお金を出して私に渡してきた。
 へえ、美少年君、お金持ち。

「あ……でも」

 お釣りを渡しながら、ある心配な部分を思い出した。

「その服、背中に穴が開いてないの。不便かな……」

 私のその言葉に、少年が驚いた顔をする。

「……お前。羽を見たのか」
「でっかい羽だったんで……」

 あれ? そういえば、消えてなくなってるな。確かに見たのに。

「あの羽は服を貫通するから穴は必要ない。……が、娘。お前、羽を見たのに通常通り接客したのか? 俺が人ならぬものだと知りながら?」
「いや……その……」

 私はもじもじした。そうだよなぁ、まともな人のリアクションじゃなかったよなぁ。
 まずは、「あんただれ! その羽は何! 人間じゃないわね!」って騒ぐよね。

「人間じゃないのかなーとは思ったよ。でも、お客さんでしょ。服を買いに来たんだからさ。私は泥棒の方が来られたら困るわけで……。お客さんならどんな存在であっても、接客するよ」

 コーディネートに夢中になって、少年が何者なのかとか、どうでもよくなっちゃったしね。
 少年はしばらく私を見つめていた。なんとなく、私も見つめ返す。
 にらめっこみたいだ。目をそらしたら負けって感じ。

「俺は、樹。天狗の樹だ」
「天狗……?」

 天狗って、妖怪の?
 小さい頃に天狗が出てくる絵本を見たことがあるけど、そこに描かれている姿と目の前の少年の姿は、かけ離れている。

 顔が赤くて鼻が高くて、大きいイメージなんだけどな。あ、でも、最初に着ていた服は、天狗っぽかったかもしれない。山伏が着てる服なんだよね?
 着替えた後はますます、個性的な服を着ただけの普通の美少年だ。

「天狗には見えないなぁ」

 正直な感想が、口をついて出る。
 少年は少し、眉をしかめた。

「いろいろと、事情があるからな」
「ふうん」

 ワケアリ天狗美少年か。

「怖くないのか、俺が」
「怖がるポイント、あんまりないし……」

 別に、飛びかかってくるような気配もないしね。
 私の胸には恐怖なんてなくて、サイコーのコーデができたことへの満足感しかない。
 まだ未熟者だから、コーデを考えても上手くいかないことってあるんだよね。なんか違うなーっていう。
 でも、この樹って子の格好はすこぶるキマってる。感動的なくらいだ。

「……面白い。お前、名前は」
「え? 瑞野咲、だけど」
「咲か」

 すっかり油断しているところへ、腕をつかまれ、私は樹の方へぐっと引き寄せられた。
 抵抗する間もなくて、私と樹の距離が縮まる。

 顔が、近づく。
 ほとんどゼロ距離。

 樹の吐息がかかりそうなくらい。
 樹のまつげの数が数えられそうなくらい。
 きめ細かい肌がアップになって、硝子玉のような目は、漆黒に輝く。

 ――綺麗……。
 私は息を、のんだ。

「お前が気に入ったぞ、咲」
「は」

 ていうか! 近い! 近すぎる!

「離してってば! な、なん、何なの!」

 足に力を入れて体を引こうとするけど、樹は離してくれない。

「あやかしを見ても恐れないとは興味深い。今まで妖怪を見たことがあるのか?」
「あるわけないでしょ」
「ますます面白い」

 ふっと笑みをこぼす樹。
 そしてやっと、腕から手を離してくれた。

「俺はまたこの店に来る。その時までに、『こーで』とやらを考えて服一式を用意していてくれ」

 ぽかんとしている私に、来るときに着ていた服を押しつけてきた。

「いつも世話になっている店がしまっている。百合子に頼んで、修繕しておいてくれ」

 言うだけ言って、樹は手に下駄だけをぶら下げるとスタスタ店から出て行こうとした。

「またな」

 目を細めて笑うと、戸を開ける。

 ――バサッ。

 瞳と同じ、漆黒の翼が広がった。

 ――バササッ!

 飛び上がり、あっという間に姿は見えなくなった。
 樹の服を抱きしめたまま、呆然と立ち尽くす私。
 何だかよくわからない。あいつに、あの服が似合ってたってこと意外は。
 私はとりあえず、こう口にすることしかできなかった。

「……ありがとうございました……」

 ほら、あいさつって大事だからね。
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