Excessive love.
Prologue
 この日は、人生で最悪の日だった。

 別に、疑っていたわけじゃない。テーブルの上に置き去りにされた彼のスマホが、不意に短く震えた。光った画面に出た通知が、望んでもいないのに視界に飛び込んできた。


«りゅうくん、昨日は楽しかった~♡
今日は会えないのかな?寂しいよ~»


 語尾に付くピンクのハートと、甘ったるい絵文字。

 昨日の金曜日、飲み会で遅くなると言っていた彼の顔が脳裏をよぎる。


(…ああ、やっぱり)


 心の奥が冷たく、硬くなっていくのがわかった。

 送り主の名前はあみ。

 相手はきっと、私の勤める会社の営業事務、姫野(ひめの)あみさん。彼女がよく経理課へ足を運び、私の恋人である加藤(かとう)隆太(りゅうた)とよく親しげに話しているのは知っていた。

 愛嬌があって、計算高く、誰からも好かれる彼女。どこかで覚悟はしていたつもりだったけれど、いざ突きつけられると、呼吸の仕方を忘れそうになる。


「…あみって、姫野さん?」


 リビングに戻ってきた隆太が、スマホを凝視する私を見て足を止める。

 一瞬の沈黙。彼はあからさまに動揺し、泳いだ視線が宙を彷徨った。


「…見たの?」

「先に私が聞いているんだけど」


 荒らげる声すら出なかった。ただ、静かな怒りが、部屋の空気を満たしていた。

 隆太の顔から罪悪感が消え、徐々に開き直ったような、冷ややかな色へと変わっていくのを私は黙って見つめていた。
< 1 / 142 >

この作品をシェア

pagetop