Excessive love.
『俺が、こんなおかしな様子の実季に気付かないと思ってた?』

「…おかしいって?」

『君が一人で苦しんでいるのを分からない男だって思ってたかって、聞いてるんだよ』


 受話器越しに届く彼の口調は、いつになく険しく、きつい。

 だけど、その響きの奥には、悲しみが混じっているのが分かった。


『…別れない。もし、姫野に何か言われたなら、その誤解は解けると思うし、それ以外だったとしても、俺が君と別れるって選択肢はない』

「姫野さんは、関係ありません! 全部私の考えで…、私が決めた事です」

『じゃあ、君の考えが変わるまで何時間でも、何日でも、どれくらい時間を掛けても話すよ。君がもう疲れたって言っても、俺から離れないって約束するまで、ずっと』


 それじゃ、困るって言っているのに。

 この人は、分かっていない。

 この会社で十二年も誠実に働いてきて、誰もが背中を追いたくなるような理想の上司。そんな人が、たった一枚の卑劣な写真のせいで、積み上げてきた信頼を壊されていいはずがない。

 どう返すべきか、喉の奥まで出かかった言葉を飲み込んだ瞬間、不意に外線の通話が切れた。

 ツー…、ツー…。

 機械音だけが耳に残る。
 私は震える手で、そっと受話器を戻した。

 どうしたらいいのか、もう分からない。

 話し合うべきなのは分かっているけれど、今彼と向き合えば、間違いなく絆されてしまう。

 今日はどこかのホテルに泊まって、明日の朝一番で遠方の実家に逃げようかと、そんな考えを巡らせていた。

 私の決意は、今も変わらない。
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