Excessive love.
 オフィスに足を踏み入れて、真っ先に視界に入ったのは姫野さんだった。数名の男性社員に囲まれ、屈託のない笑顔を振りまいている。

 別れて正解だった。浮気をするような男なんて、こっちから願い下げだ、と頭では理解していても、数年間の月日をあんなにあっさりと奪われた悔しさが滲んでくる。

 少し眺めた後、私はすぐに視線を逸らした。ここで彼女を睨みつけたところで、失った時間は返ってこない。

 何より、私はこの仕事が好きだから、私怨で居心地を悪くして、居場所を失うなんて愚かな真似は絶対にしたくない。


「新田さん、おはよ」


 デスクに着くなり声をかけてきたのは、及川くんだった。


「おはよう」

「大丈夫そ? 顔色良くないけど」

「大丈夫。土曜日はお世話になりました」

「全然。てか、マジで何があったの」


 及川くんが知らなかったことにかなり驚いた。
 優花がてっきり話していると思っていたから。


「…優花から聞いてないの?」

「優花は話さないでしょ。私から話して良いか分からないから言わないの一点張り」

「そっか…」


 胸の奥が、じわりと熱くなった。

 いくら最愛の恋人が相手でも、友人のプライバシーは絶対に売らない。そんな優花の、当たり前で、けれど何より難しい誠実さが、今の私には涙が出るほど有り難かった。

 信頼できる友人が一人いる。それだけで、この人生もまだ全然捨てたものじゃないと思える。
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