離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
覇気のない声で返事をすると、夫の財前珀人さんと医師の神山先生、そして看護師が続けて部屋に入ってくる。
口髭をたくわえた六十代後半の神山先生は財前家お抱えの内科医で、一族の誰かが体調を崩した場合は、連絡すればすぐにこうして往診に来てくれるらしい。
「なるほど。顔色がよくないですな」
神山先生は私の顔をしげしげと観察した後、傍に立つ夫に告げた。
「ここ数日、ずっとこんな感じでして……熱はありませんが、とにかく食欲がないんです。水を飲むのもつらそうで」
私に代わって先生に説明する珀人さんの声音は優しい。
人前で愛妻家を装うのは今に始まったことじゃないけれど、そうした偽りの優しさとは違うなにかが、最近の彼からは感じられる。
だから、一度は別れようと決めたのに……今になって、ためらいが生まれている。
「……珀人さん」
「どうした?」
弱々しい声で夫に呼び掛けると、彼が大きな身を屈めて心配そうな眼差しを向けてくる。
「少し、部屋の外で待っていてくださいませんか? 先生にお話したいことがあって」
「……わかった。それでは神山先生、妻をよろしくお願いいたします」
「承知しました」
珀人さんが部屋を出ていきパタンと扉が閉まると、寝室がしんと静かになる。
上半身をゆっくりと起こすと、どうして私が夫を追い出したのか測りかねた様子で首を傾げる神山先生と目を合わせた。