離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
つい仕事に関係ないことを思い浮かべつつ再びマウスを動かすも、反応ゼロ。
今年の春に引退した父に代わって財前ホールディングス社長に就任してから半年。
一年をかけて達成しようと目標にしていたグループ全体の収益はすでに越えており、新たな収益目標と、それを達成するための計画を策定しようとしているのに、これでは仕事が進まない。
パソコンに自分の心模様が伝染して不具合を起こしているわけでもないだろうに……。
挙句の果てにはそんな非科学的でばかげた思考まで湧いてきて、ため息をつく。
いくらIT系企業の社長とはいえ、俺の専門は経営だ。コンピューターの詳しい知識はなく、その辺りは優秀な部下たちに任せている。
餅は餅屋、というのが持論なのだ。
今はそのせいで暗い画面に映る自分とにらみ合う羽目になっているが……。
仕方なく内線で誰かを呼ぼうと電話に手を伸ばしかけたその時、社長室のドアがノックされた。
「社長、四季です」
「ああ、ちょうどよかった。入ってくれ」
「失礼いたします」
ドアが開いて入室してきたのは、社長秘書の四季鞠絵だ。寸分の乱れもないまとめ髪に、知的なスクエアフレームの眼鏡をかけた彼女とは、実は高校からの同級生。
彼女が会社にいたことは知っていたが、俺の専属秘書になるという偶然には驚いた。
しかし、彼女は高校時代から優秀な女性だったので、社長秘書に抜擢されてもおかしくはない人材だ。俺としても異存はなく、スケジュール管理等一切の雑務を、彼女に任せている。
パソコンの操作や仕組みに関しても、俺よりは詳しいはずだ。