離縁を告げた夜、堅物御曹司の不器用な恋情が激愛豹変する
「ちょっと、これを見てくれないか? さっきからなにをしても反応しなくて」
「フリーズしているんですか? 失礼しま――」
デスクの向こう側にいた彼女が、こちらに回ってくる。そして、俺の手元を覗き込んだところで、目をぱちくりさせた。
「社長、それは先週『Z電機』の担当者が置いていった、新型マウスのサンプルです。本物はそちらではないでしょうか?」
四季が『そちら』と手のひらで示した先に、色も形もよく似たワイヤレスタイプのマウスがあった。自分が先ほどまで触れていたものと見比べ、ようやく納得する。
俺が触っていたマウスもサンプルとはいえ充電すればきちんと使えるものだが、社長室のパソコンと同期はしていない。
操作しても反応しないのはあたり前である。
「……すまない。疲れているらしい」
あまりの不甲斐なさに目元を手で覆い、彼女に深々と頭を下げる。
「ふっ。本当にそうみたいね。こんなミス財前くんらしくないもの……あ、ごめんなさい。社長に向かって」
思わずといった感じに同級生の顔をのぞかせた四季だが、すぐに口元を引き締める。
彼女はなにも悪くないため「いや」と軽く首を振ると、気を取り直して問いかける。
「それで、きみの用件は?」