天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


 あの婚約破棄劇のあと、シオン様と私の結婚は無事に認められた。

 この国では、貴族令嬢の結婚には神殿と国王からの承認が必要だ。

 しかし、神殿は驚くほど簡単に私たちの結婚を承認した。表向きは、婚約破棄された可哀想な令嬢に同情、と言うことになっている。

(本音は、悪女ルピナがこれ以上暴れないことを祈ってるのよね)

 国王は難色を示したが、自分の息子がしでかした結果なのだ。そこを指摘されたら、反論もできず承認するしかなかったようだ。

 既成事実を作ったあと、シオン様の生家にも結婚の連絡をしたのだが、諸手を挙げての大賛成だった。不要な息子を公爵家が引き取ってくれたと大喜びなのだ。そのうえ、セレスタイト公爵家と縁ができるのだ。反対する理由などない。

 ちなみにシオン様の実家、モーリオン男爵家はあまり裕福とはいえない。田舎の領地を治める侯爵家に付きしたがい国外で暮らしている。古い因習に捕らわれている田舎では、王都よりも偏見が強い。

 黒髪のシオン様は、不義の子供として疑われ、両親に嫌われ家族内でもつまはじきになっていたのだ。

(だから、原作のシオン様は自分を差別しなかったエリカとローレンス殿下に依存に近い愛を向けていた……)

 家族の愛を知らないシオン様は、ふたりにすべての愛を注いでしまう。その結果、ふたりの罪を被り宮廷追放、最終的には失踪のち自死だ。
< 45 / 305 >

この作品をシェア

pagetop