無口な人魚姫と粗暴な海賊
 なんせ、笑顔を浮かべるのは久しぶりだった。

 最後に笑顔を浮かべたのはいつだったか。

 思い出そうとするが、全くと言っていいほど思い出せない。


 それだけ、パールは笑っていなかった。


 嬉しいことがないから、笑いたいと思うことがそもそもなかった。

 地獄のような場所で、笑いたいと思う瞬間がなかったのだ。


 笑わなかった。

 家族たちは皆、私が幸せそうにしている姿が嫌いだったから。


 笑えなかった。

 海のどこにいても異端児扱いで、腫れ物を触るような扱いだったから。


 笑顔を浮かべようとしても、鉛よりも、錨よりも、重い心が邪魔をして、笑顔なんて、浮かべられなかった。


 家族の態度が。

 家族に浴びせられた言葉が。

 今でも忘れられなくて。

 忘れる方法を知らなくて。

 苦しくて、辛くても。

 どうにも、できなかった。


 心を壊されるのは、とても簡単なのに、

 心を修復するのは、とても難しかった。


 だから、未だにパールは笑えない。

 傷を癒す術は、長年受け続けてきた暴力(ことば)の中で、当たり前のように馴染んで、麻痺して、いつの間にか、忘れてしまった。
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