無口な人魚姫と粗暴な海賊
「椅子をこちらに持ってくればよろしいでしょうか?」


 意図を汲み取ってくれたミーシャに心の中で感謝の言葉を述べて、コクリと頷く。


 ミーシャは洗練された動きで、軽々と()()()椅子を持ち上げる。

 ひょいっと効果音がつきそうなほど、軽く持ち上げたミーシャにパールは内心驚いていた。

 小柄な見た目に反して力持ちなミーシャ。

 先程、護衛も担うと言っていたから、強くて当たり前だ。

 椅子も軽く持ち上げることができるのも、そう考えると全く不思議ではない。

 そんなことを考えているうちに、パールの目の前に椅子が置かれた。


 パールはバスタブのふちまで近づき、『どうぞ』と言うように 、手のひらを前に出して椅子へと指先を向ける。


「座って……よろしいのですか?」


 驚いたのだろう。

 ミーシャの耳がピーンと立ち、声は驚いたような、戸惑ったようだった。

 悪いとは思う。驚いている相手にこんなこと思うのも失礼だろう。


 でも――。


 感情に合わせて動くふわふわの耳が、なんだかとても可愛らしい。


 座るのを促した程度で驚く理由はよく分からなかったが、可愛らしいと思ってしまったお詫びに、戸惑いを溶かせるように、笑顔を浮かべてみた。

 しかし、笑顔を浮かべた瞬間ミーシャはピシャリと固まり、そして少し悲しげな表情をした。


「ありがとうございます。パール様。」


 ミーシャがゆっくりと腰掛ける。

 まだ、どこか浮かない顔をするミーシャ。


 きっと、自分の笑顔が歪だったのだろう。
< 22 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop