夜を繋いで君と行く
「はぁー…ごめん。」
「律、悪いことしてないよ?」
「…情けないところ、見せてて。」
「いいよ。…いいの。だって外ではそれを見せてこなかったんでしょ?」
「…うん。」

 律は俯いた。その頭を抱えるようにそっと怜花は胸に引き寄せた。

「…外で頑張って、家に帰ってきても私の前で頑張るの?そんなことしてたら、律は一体いつ休むの?」
「……。」
「律の休憩は、私がいないと始まらないって言ってたじゃない。ほんとの休憩をね、始めようよ。だって明日からまた舞台挨拶でしょ?」

 ただ抱きしめられたまま、律は頷いた。

「だったら少し、吐き出していいよ。嫌なこと、いっぱいあったんじゃないの?…律は優しいから、余計に傷ついて…持ち帰っちゃったんじゃない?」
「…怜花、幻滅するかもしれないよ。そんなことも許せないのかって。…気にしすぎなだけかも、しんないし。」

 律の言葉に、怜花は小さくため息をついた。呆れたのではなく、『そんなところまでこの人は気にかけてしまうのか』と思って。

「傷ついた内容にたとえ共感できなくたってね、…律が傷ついてる状態でそのまんまにしておくことの方ができないの。律が泣くなんてよっぽどのことがあったんだよ。律がどんなことで傷つくのか、それをどうやったら少しでも和らげることができるのか。…それを私が知りたくて、…この先、律のことを傷つけないためにも。」

 何度も傷つけた。繊細で、不安を隠してしまうこの人を。もう会わないと勝手に決めて、立場の違う人だからと遠ざけて。気持ちを隠して。ずっと優しさに甘えて、甘やかされてここまできた。だから今日はどうしても、ちゃんと泣かせて、そして傍にいたいと思う。できる限り、心と体に触れて。

「…いっぱいお願い、してもいい?」
「うん。いいよ。」
「即答なの?」
「だってね、律って全然これしてって言わないよ?最近ちょこっとだけ、ハグは…ある、けど。」
「…一回お願いし始めたらさ、際限なく増えちゃいそうなんだよ、してほしいことなんて。」
「いいよ、際限なくても。まず一つ目は?」

 怜花は腕を緩めた。まだ少し潤んだままの律と目が合う。

「…名前。」
「名前?」
「名前、呼んでほしい。」

 怜花はすぅっと小さく息を吸った。

「律。」
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